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満月2 -Hokuto.M- ページ5

話しているうちに、家に到着してしまい、

「では、また」

と他人行儀に頭を下げると、北斗は離れへと消えていった。









夜、部屋の前に一冊の本が置いてあった。

夕方に北斗が言ってたツルゲーネフの『片戀』。

その夜は寝ずにその本を読み切った。

多分『月が綺麗ですね』の返しはこれだろうなって思う言葉を見つけて、

朝、学校までの道すがら、得意げにその話を聞かせてみる。

「読んだよ、昨日
『月が綺麗ですね』の返しは、『死んでもいいわ』だと思う」

北斗は急に立ち止まって、しげしげと私を眺めた。

「驚いた
それがわかるなんて、Aさまは意外に大人だったんですね」

そうからかっては、再び歩き出す。

「あれは英語では「Yours」という一つの単語のみで表現されています
『私はあなたのものよ』という意味です
それを二葉亭四迷は『死んでもいいわ』と訳したんです」

『死んでもいいわ』か…。

でも、当てはまってるかもね。

それくらいの覚悟がないと、「愛してる」なんて軽々しくは言えない。









結婚式の準備が慌ただしくなり、北斗も地元で中学の教師になることが決まった。

私の気持ちは鬱々と暗くなっていき、

いつものように学校からの帰り道、急に何もかもが厭になった。

北斗に無理を言って川沿いの道へ寄り道してもらう。

河原の大きな石に二人で並んで腰かけて、そこから見える大きな橋を指さした。

「ねえ、北斗。
私があそこから飛び降りたら、助けに来てくれる?」

北斗は簡単にこう答える。

「行きますよ」

「川の中に入って?」

「そうなりますね」

「何で?
それは私が寄宿先の娘だから?」









「…さあ、どうでしょう」

でも、そう答えた後、

「じゃあ、私が今からこの川に入っていったら、Aさまは止めてくれますか?」

なんて切り返してくる。

「止めるよ」

「川に入って?」

「もちろん」

「でも男の力は強いですよ
Aさまのことをそのまま、道連れにしてしまうかもしれない」

そう言って北斗は緩く笑って、また私の頭を緩く撫でた。

「冗談ですよ
帰りましょう」









不意に、北斗の袂を掴む。

「いいよ、連れて行っても」

そう告げると、北斗は満足そうに微笑んだ。

「じゃあ、連れていくことにします」

そのまま私の手を握って、北斗は川へ向かって歩き出す。

川の手前で一度立ち止まった北斗は、私に微笑みかけた。

「月が綺麗ですね」









END
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わかめん(プロフ) - ちあきさん» コメントありがとうございました。チョコミントも読んでいただいて感謝感激です。天才とか!!!畏れ多いですが、そんな風に言っていただけてうれしいです(/ω\) (2018年4月1日 21時) (レス) id: b9a73f2b64 (このIDを非表示/違反報告)
ちあき(プロフ) - チョコミント〜の作品を読ませていただいていて、こちらに飛んできました。ほっくんの短編を読ませていただきました。天才ですね(語彙力) (2018年3月19日 0時) (レス) id: a4f7d39adb (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:わかめん x他1人 | 作成日時:2018年3月14日 18時

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