だめですか？ ページ9
｢俺は、有岡がとんなやつだろうと好きだよ。｣
伊野尾は俺をまっすぐ見つめて言う。
｢そんなのっ…｣
口ばっかだろって言おうしたけど遮るようにして
｢ほんとうにいのちゃんが亡くなったのは有岡のせいなのかどうかは俺はよく分かんないけど、でも一つだけ言えるのは自分の命をかけて守った有岡が”俺のせいで”って悲しむのはいのちゃんも望んでないんじゃないかな。｣
｢っ…｣
目がじわっと滲む。
目のふちに収まりきらなくなったそれはポロポロっと頬を伝ってこぼれ落ちた。
伊野尾の綺麗な指があの日みたいに拭う。
｢っ…ぅっ…｣
こんなとこ、伊野尾に見せたくないのに。
涙が全然止まんない。
そんな俺を伊野尾はまた優しく抱きしめた。
｢いっ…いのちゃっ…｣
伊野尾のスーツをぎゅっと掴んで俺はただ、｢いのちゃん｣と言いながら思いっきり泣いた。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
俺の涙も徐々に収まりなんとか喋れるくらいまでにはなったとき、伊野尾が遠慮がちに聞いた。
｢あの、さ…その…有岡といのちゃんって…付き合ってたりとか…？｣
｢…うん、付き合ってた。｣
俺は座り直して話し始めた。
｢俺といのちゃんはちっちゃいころからの親友でずっと一緒にいたんだ。…でもそのうちに、いのちゃんに友達以上の感情を持ってることに気づいて…高校入っていのちゃんに告白されて付き合ってた。｣
｢…どんな人だったの、？｣
いのちゃん、は…
｢ばかだけど頭良くてお調子者で優しくて…すごく、かっこいい人だった。｣
そう言ったときまたポロッと涙がひとしずく目から落っこちた。
｢へへっ…どんだけ泣いてんだって話だよな。｣
そう言って涙をゴシゴシと拭って笑うと、伊野尾が｢…有岡｣って言った。
｢何？｣
｢俺じゃ…だめかな。｣
伊野尾がまっすぐに見つめてくる。
｢へ、？｣
｢俺じゃ、いのちゃんの代わりにはなれないかな、？｣
｢なっ…何言ってんだよ｣
そう言って笑ったけど伊野尾は真剣な表情のまま。
｢俺が有岡のいのちゃんになる。俺が有岡を笑顔にさせる。…だから、そばにいさせてよ。｣
俺が何も言えずに伊野尾を見てると、伊野尾は｢嫌なら逃げて。｣って言って顔を近づけ、キスをした。
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作者名：姫葵 | 作成日時：2020年5月2日 10時
