やっちゃった ページ3
ある日の朝。
通勤ラッシュでぎゅうぎゅう詰めの電車を降りて会社に向かう。
体も心もとても重い。
俺はその理由をちゃんと分かってる。
｢大ちゃーーんっ｣
こいつだ。
こいつ＿＿伊野尾慧は前に俺とちょっと話をしてからというもの、何かと絡んでくるようになった。
伊野尾が走ってきて俺の隣に並ぶ。
｢大ちゃんおはよっ｣
伊野尾が一方的に絡み始めてから俺のことを”大ちゃん”って呼ぶようになった。
ムカつく。
俺が無視していると、
｢もー、無視しちゃだめでしょっ｣
ってわざわざ俺の前にまわってくる。
なんなんだこいつは。
｢…どけよ。｣
｢あっ、やーっと喋ってくれた〜｣
どけよって言ったはずなのに伊野尾はなぜか嬉しそうな顔をして後ろ向きで歩きながら俺の前にいる。
俺が右にずれると伊野尾も動き、左にずれると見せかけて右に動いてもこいつには通用しなかった。
｢ねぇねぇ大ちゃんっ、今日仕事終わりに飲みに行こうよっ｣
やめろよ。
｢ねーねー、大ちゃん聞いてる？｣
俺のことをそうやって呼ぶなよ。
｢ねー、大ちゃん｣
｢俺をそれで呼ぶなよっ！｣
あ…
やってしまった。
｢大、ちゃん…？｣
ぽかんとした顔の伊野尾。
俺はばつが悪くなって伊野尾の横を通り過ぎた。
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作者名：姫葵 | 作成日時：2020年5月2日 10時
