水引の恋【冨岡義勇】 (ページ42)

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臆病者. ページ42

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『過去に何も無い人…かぁ、』

夜ご飯の支度をしながら。
しのぶさんが言っていた事をぽつり、呟いてみる。

確かに、人にはそれぞれ過去があるわけで。
背負っている物の大きさや重さは、人によってばらばらで。かくいう私も、それなりの過去を背負っている人間であって…。

だけど。
義勇さんが背負っている何かは、私のそれとは比べ物にならないほど…凄惨で、残酷であるように思えた。

だから、自分から聞き出す勇気すら持てない。
"知りたい" なんて安易な気持ちでいる事さえ許されない気がする…。

『いつか、話してもらえるかな』

気持ちが通じ合ったあの日から。
無口なことには変わりないけど、義勇さんは今までよりも話して(・・・)くれるようになった。

でも、肝心な事は何一つ教えてくれない─────彼の核心に触れるような事は。

……無理やり聞けば、教えてくれるのだろうけど。

触れたくても触れられない。
聞きたいけど、その一歩を踏み出せない私と同じで。
彼もまた、己の領域に足を踏み入れられる事を躊躇っているような。

似た者同士、なんて言えば聞こえはいいけど。
互いが互いに臆病なんだろうなぁ、なんて。

大根を銀杏切りにしながら、ぼんやりと考えていた。

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