水引の恋【冨岡義勇】 (ページ41)

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近くて遠い. ページ41

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「人を寄せ付けないというか、他人に一線を引くような人でしたからねぇ」

お皿の上の錦玉も無くなった頃。冷たいお茶を飲んでいた私に、しのぶさんはそう言った。
そして、店の外の行き交う人を眺めるその横顔を見ては、いつしか彼女に言われた事を思い出す。

─────Aさんが来てからですよ。良い意味で、冨岡さんの雰囲気が変わったのは。

『私、何も知らないんです』

「え？」

『義勇さんの過去の事とか、抱えているものとか』

硝子のコップに残った氷が、からんと音を立てて溶けた。

『こんなに近くにいるのに、遠く離れた影を追いかけてるようで…何だか苦しくて』

こんな事、しのぶさんに言っても仕方ないって分かってる。だけど…一度吐き出してしまったそれは、どうにも止めることが出来なくて。

かと言って、義勇さんにぶつけられるほどの勇気を持ち合わせてるわけでもない…。

そんな自分の不甲斐なさに、膝の上でぎゅっと両手を握り締める。その様子を見ていたしのぶさんは、盛大にため息をついた。

「まったく、冨岡さんも阿呆な人ですね。
Aさんにこんな顔をさせるなんて」

心底呆れたような、そんな言葉。
でも不思議と、いつものような毒々しさは感じない。

「私も、一から十まで知ってるわけじゃないですよ。
ただ…鬼殺隊には似たような人が多いですから」

『似たような人、ですか？』

「えぇ。
過去に何も無い人なんて、いないという事です」

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