水引の恋【冨岡義勇】 (ページ38)

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夢で逢えたら. ページ38

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( 冨岡side )

ふと、目が覚めた。
まだ夜も明けていない、真っ暗な時間に。

額に滲む汗を腕で拭い、音を立てぬよう布団から抜け出す。そのまま部屋を出て縁側に腰を下ろせば、半分に欠けた月が此方を見下ろしていた。

─────あの夜、裸足で山を駆けながら見た月と同じだった。

だからあんな夢を見たのか。
たった一人の家族が殺された、血に塗れた夢を。

「……姉さん」

変わり果てた姿で横たわるその人を思い出しては、胸の奥底に言い表しようのない何かが渦巻く。
庭の草花を揺らしながらゆるゆると流れ込む風に、血の匂いが混じっている気さえした。

"ふふっ、また口の周りに沢山つけて…"

"大丈夫よ、姉さんは何処へも行かない"

記憶の中のその人は、いつも優しく笑っている。
だが、夢で見るその人は目に涙を浮かべながら笑っていた。

暗くて狭い所に押し込められた時の記憶は、まるで昨日の事のように覚えている。

"姉さんとの約束よ─────"

夢で見るのは決まってあの時のこと。
どれだけ願っても…花のように、優しく笑うその人には会えなかった。

「…くそ、」

込み上げてくる何かを抑え込むように。
右手で目元を覆いながら息を吐いたその時。

障子が、そっと開く音がした。

『義勇さん？』

「すまない、起こしてしまったか」

『…いえ、』

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