帰る場所. ページ37
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私と義勇さんとの関係に、"恋仲" なんて確かな名前がついてから。一つだけ習慣になった事がある。
それは…。
『狭くないですか?』
「あぁ、大丈夫だ」
夜、同じ布団で寝るという事。
少し前、朝方に任務から帰って来た義勇さんが寝惚けて私の布団に入ってきた事があって。
その日をきっかけに、義勇さんが屋敷にいる夜は一緒に寝よう、という事になったのだ。
思えば…泣き疲れて眠ってしまったあの日は、目を覚ますなり逃げ出してしまったけど。
慣れとは不思議なもので、今はもう恥ずかしいの「は」の字も無い。
むしろ、温かい何かで心が満たされていて。
『…義勇さん』
「どうした」
『幸せって、こういう事を言うんですね』
深い紺の瞳を見ながら、そう呟いた。
『好きな人に抱き締められて、共に朝を迎えられる。これ以上の幸せなんてきっとありません』
鬼殺の世界に身を置く彼が。
いつその身が滅びるかも分からない、そんな世界を生きる彼が。
こうして傍にいてくれる事が、如何に幸せか。
…大切な人を失った過去があるからこそ、気づくことが出来たのだろう。
「A、」
『何ですか?』
「俺が帰る場所は一つしかない。
夜明けと共に、必ずAの元へ帰って来る」
『…はい、お待ちしてます』
彼の目の前に、すっと小指を差し出す。
そこに骨張った小指が絡められて。
指切りげんまん、と呟いてから瞼を下ろした。
どうか、この幸せが続きますように。
そんな事を願いながら─────
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作者名:Hana :*・ | 作成日時:2020年7月9日 17時