曙光. ページ33
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遠くの方で聞こえる、小鳥の囀りに意識を引き戻されて。ゆっくりと目を開ければ、見慣れた天井が視界に映る。
何度か瞬きをした後、ぐるぐると眼球を動かしていると、此方をじっと見る義勇さんと目が合った。
「…気分はどうだ」
『はい、お陰様で』
問題ありません、と言う代わりに少し笑ってみせる。
すると彼もほんの少し目を細めて…。
こんなに優しい顔は、初めて見たかもしれない。
「痛む所はあるか」
『いえ、大丈夫です』
「そうか…」
そう言いながら義勇さんは私の背中に手を入れて、体を起こすのを手伝ってくれる。
『あの、義勇さん』
「何だ」
『本当にありがとうございました。
それから…ご心配をおかけしました』
ざっと脳裏を過ぎる昨夜の出来事。
布団の上で姿勢を正し、深く頭を下げれば…そこに大きな手が乗せられる。
予想もしてなかったその温かさに慌てて顔を上げるも、依然として彼の手は私の髪に触れていて。
ぽんぽん、と幼子をあやすように撫でられたかと思えば、耳や頬に指先が滑り落ちていく。
ぽっと顔中に集まった熱が、彼の手に伝わってしまいそうで…。行き場を失った視線が忙しなく空を泳いでいた。
「A」
『はい、』
「…無事で良かった」
眉を下げ、どこか哀しげな表情でそう言う。
そんな彼の顔を見て、つんと喉の奥が熱くなった。
思えば、昨夜の義勇さんはいつもと違った。
ひどく慌てた様子で、意識が朦朧とする私に何度も声をかけてくれて。
今もきっと、私が目を覚ますまで傍に居てくれて。
こんなにも、大切に想われていたのだ…。
今更ながらそんな事に気が付いて、じんわり涙が滲むと同時に……無意識のうちに、義勇さんに向かって目一杯腕を伸ばしていた。
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作者名:Hana :*・ | 作成日時:2020年7月9日 17時