救いの手. ページ31
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こんな事なら、もっと伝えておけばよかった。
あの日、助けてくれた感謝の気持ちを。
義勇さんのおかげで、生きる意味を持てたことを。
ちゃんと伝えておけばよかった。
いつしか抱いていた、「好き」の二文字を。
「もうすぐ楽になるからね」
『っ、』
「おやすみ、良い夢を…」
薄く開いた視界の中で、悍ましく弧を描いた鬼の口が見える。
もう、涙も出なかった。
…義勇さん、心配するかな。
帰った時に私の姿が無かったら。
最期に一目、会いたかったな…。
もう二度と見れないその姿を思い浮かべながら。
もしかしたら私は、どのみち鬼に殺される運命だったんじゃないかって…自嘲じみた事を思ってしまう。
そして、鬼の腕を掴んでいた手の力が抜けた瞬間。
目の前に、青く美しい水飛沫が立った─────
『…はぁっ、はぁ……』
気づいた時には、首の圧迫感も無くなっていて。
力なく座り込みながら、胸の前に手を当てる。
…とくとくと掌に伝わる確かな感触に、泣きそうになった。
まだ、生きてる。
深く、深く。
酸素を肺に送り込みながら顔を上げると、目の前には…。
「A!」
『ぎゆ、さ…』
額に汗を浮かべながら、珍しく声を荒らげる義勇さんがいて。
突然抱き抱えられたかと思えば、地面に転がる鬼の首から離れるよう走り出す。
その時見えた彼の横顔は…痛々しくて、悲しそうで。今にも消えてしまいそうな、そんな表情だった。
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作者名:Hana :*・ | 作成日時:2020年7月9日 17時