シンデレラボーイ ~Yuta.Kishi~

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『うん、怪我するからって･･そんなの言い出したら切りないのに』







ちょっとした事ですぐに心配される。






･･大袈裟なんだ。







それを理由に今まで、色んなことを諦めてきた。







それもこれも全部自分の人生、。






しょうがないと割り切ればそれは簡単に終わることだった。








岸「お嬢様も大変だな」






『ほんとだよ、』







金に困らなくていい、とか優雅な暮らしがどう、とか････







周りからはものすごく羨ましがられる。







だけど、私からしたら皆の方が羨ましくって







自由に好きな人と付き合う事すら許されない。







親の決めた相手と結婚が決まってるだなんて･･どんなに口が裂けても岸くんには言えない。







自分で決めれる事なんて、何一つないんだ。







岸「A？」





『はっ』







目の前の岸くんは私の顔を黙って伺う。







岸「なんかあった？」






『ううんッなにも、』








彼に相談したら傷は癒えるのかな･･






癒えなかったとしても、それでも岸くんならその優しさで私の不安を取り除いてくれるだろう。







だけど、･･それを知って離れていくかもと思うと、相談したくても出来なかった。







『卵焼き食べたいっ』









その不安を隠すように、私は彼に必死に甘える。






岸くんが毎朝作って、毎日のように弁当箱に入れてくるその卵焼き、。







現実から逃げ続ける私に、その卵焼きはいつも少しだけ魔法の力を貸してくれる。







岸「ほいっ」







綺麗な箸使いで卵焼きを一つとると、そのまま私の口元まで持ってきてくれる。







パクリと大きく口を開けて一口で中にいれた。






常に上品な食べ方、マナーを厳格に教えこまれている私、。






ここじゃなかったら絶対に下品と叱られただろう。







岸「ど？･･うまい？」







ほのかに感じるその甘みが私の不安定な気持ちを一瞬で和らげる。






本当に不思議なくらいに、少しずつ癒えていくのだ。







それは誰が作る卵焼きでもいい訳じゃなくて、岸くんが作る卵焼きだからできること。







彼が作る卵焼きはどんなに高級なフレンチ料理より、豪華なおせち料理より







････特別なんだ。

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