三周回ってぶりっ子を許せる小説

4-6.ぶりっ子ちゃんの休息 ページ7

帰宅。夕食。お風呂。課題。ぶりトレ。すべてぼんやりとしながらこなし、ようやく暇ができて自室のベッドに身を投げた瞬間、強烈な睡魔に襲われた。

　濃い一日だった。

　ぶりっ子プレゼンを無事終えて一段落と思いきや、先輩たちに捕まり、部活勧誘を受け、そのまま仮入部。ももえーるひとつで、まさかこんなことになるなんて。

　仰向けで寝っ転がったまま枕元のスマホを取ってFINEを開けば、もりりん先輩と泉先輩が新たに追加された友達欄が出てきた。まじまじとそれを見つめても、実感が湧かない。化学講義室での出来事がまるで突飛な夢のように思える。まぶたに伸し掛かる眠気に脳が怠け始め、妙な浮遊感に心地良さを覚える。このまま目を閉じて朝になれば、綺麗さっぱり忘れて、何事もなかったかのように過ごしているような気がして――

「いたっ」

　顔面に痛撃。うとうとしてスマホを顔の上に落としたらしい。画面の角に直撃した額の痛みに眉をしかめつつ、仰向けを止めて横向きになる。もしこれが泉先輩の身に起きても、泉先輩は声すら出さず、無表情のままスマホいじりを再開するのだろうか。

　結局校門で別れるまで、あの表情以外の泉先輩を目にすることが出来なかった。もしや何か怒らせてしまったか。流石にあの自己紹介はまずかったか。泉先輩の目に気後れして、もりりん先輩に視線を落ち着かせていたのも原因かもしれない。いや、怒っているのではなく、期待外れで興醒めした可能性だってある。実際わたしは人見知りを発揮して、口数を極端に減らしていた。ぶりっ子のくせしてつまらないやつだと思われたのかもしれない。すべて憶測だが、思い違いとも言い切れない。

　……これ以上はよそう。こんな陰気な脳内反省会は、いつだって前向きに振る舞うぶりっ子にそぐわない。真っ暗な画面を点灯させ、りうむちゃんの日課の「おやすみなさい」のメッセージを拝んでから寝てしまおうとTwinterを開いた。

　まただ、と心の中で呟いた。残念なことにわたしが求めていたものはなかった。最近、おはようとおやすみのどれかが抜けている日がある。以前はそんなことは一度もなかったのに。

　とはいっても、りうむちゃんにだって都合はある。今わたしが彼女にすべきことは、事情の詮索ではなく、陰ながらの応援だ。

　物足りなさを堪えながら電気を消し、疲れ切った体を睡魔に預けた。

　明日は今日よりも騒がしい一日になる気がする。

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