三周回ってぶりっ子を許せる小説

4-29.ぶりっ子ちゃんの震撼 ページ30

「断、食……？」

「じゃ、お菓子没収ということで」

「ああっ洋先輩ヒドイ！ キープしてた分があぁ！」

「いやぁ〜悪いねもりりん！ 本当はこんな血も涙もないことはしたくないんだけどね、お題なら仕方ないよねぇ！」

「うわぁあああん……！」

　大切そうに確保していたお菓子を根こそぎ先輩達に強奪され、これ見よがしに食べられる。三度の飯より四度の飯が好きなもりりん先輩にとって、これ以上の拷問はない。しかしお題とはいえ流石に良心が痛んだのか、夢野先輩も夏目先輩も大げさに食べるフリだけして少し残しておいた。

「家庭科部の食材をつまみ食いしてたツケが回ってきたのかしら」

「も、もりりん先輩、ゲームが終わるまでの辛抱です、どうか生きてください……」

　蘭ちゃんに水分を取るように促され(飲み物はOKになった)、もりりん先輩は持参した天然水を苦々しい顔で一気飲み。心なしか萎れていた頭の双葉が息を吹き返した……ように見えた。
　
「よし……次、は、誰が行きますか……？」

　「普通」の青を引いただけでこんなにボロボロのもりりん先輩を見れば、臆病な自分がけたたましく警鐘を鳴らして引き止めてくる。みんなも似たような心境なのか、黙り込んでいる。重い沈黙。しかし、これを破る怖いもの知らずがひとり。

「夏目がいきましょう！」

　正気なのかという目が一斉に集中し、気持ち良さそうな夏目先輩。

「何色引くの？」

「何寝ぼけたこと聞いてるんだい夢野洋！ 最高難易度の赤以外の選択肢なんて眼中にございませんよ！」

　これが目立ちたがり屋の宿命か、意気揚々と腕まくりし、赤のブロックを引っこ抜いた。

「みんな、見ててね！ 夏目海馬が輝くところ！」

　お題を目にした時、最初に声を上げたのはわたしだった。


　『全力でぶりっ子になる』


　一同、石化。そのまま、心配そうに引いた本人を見る。……笑顔が消え失せていた。残るは青白い戦慄。

　……当然の反応だ。少なくとも喜んでやる内容ではない。男ならなおのこと。「ヤバイ」は伊達じゃなかった。わたしがそれを引いていればこんなことには……と視線を影に沈めた。

「おれが、ぶりっ子……？ ははっ、いや冗談だろ？ ぶりっ子なんて、そんなの……そんなの……。――っそんなのぉ出来ないでしゅ〜〜〜っ♡♡」
　
　何事か！？ と首を戻せば、まくった袖を伸ばして萌え袖を作り、笑顔で両拳を顎に付けぶりっ子ポーズを決める夏目先輩の姿が！

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