4-25.ぶりっ子ちゃんの度胸 ページ26
元気を取り戻した夢野先輩は自ら低身長エピソードを話し出した。
バランスの良い食事と十分な睡眠を心がけているし、牛乳は頻繁にお腹を下すほど飲んでいる。なのに伸びない。運動不足解消を兼ねてなわとびに手を出したが、ハヤブサが入神の域に達しても目に見えた変化はなかったという。
長い前髪で片目が隠れて表情が分かりにくいが、語り口自体は明るかった。低身長について変に配慮する必要はない、難しいこと抜きで笑ってほしい、という気遣いだろうか。
「最近のやらかしは、身長欲しさにつま先立ちで帰ってたら思いっきり足を挫いたこと」
武勇伝のような口ぶりに、わたしは懐古するような笑みが出た。そんな斜め上の努力に覚えがあるからだ。夏目先輩は「最高じゃん! バレエコンクール優勝おめでとう!」と友達のやらかしに手を叩いて大喜びだが、見下しているわけではなく、身長のためなら多少の無茶も厭わない夢野先輩への一種の敬意を感じた。夢野先輩はそれを知ってか知らずか、「お祝いありがとう」と夏目先輩の腰に手刀を突き刺した。
「もりりん先輩の声……?」
一段落ついたところで、ずっと言いたそうにしていた蘭ちゃんが声を上げた。廊下で二人の押し問答が聞こえる。すぐさま入口のドアを開けに行った夏目先輩の後にわたしたちも続くと。
「嫌よ、離してよ」
「もー今日こそ行くって約束したでしょ!」
「分かってるけど、心の準備が欲しいの」
向かいの白壁にセミみたいに張り付く泉先輩と、それを力技で引き剥がそうとするもりりん先輩。おおきなかぶごっこをするには少し人数が足りないと思う。
「あ、お待たせしました! ほら凛子、もえたんとねぐらんがいるよ!」
わたしたちの所在を知った瞬間、サナギのように固まった。ややあってから泉先輩は抵抗をやめてこっちを向いた。
わたしはすかさず泉先輩にすっ飛んで行った。
「泉せんぱぁい♡ お久しぶりですぅっ♡」
泉先輩は「もえたん」を許していないかもしれない。でも、臆病風に吹かれて中途半端じゃもっといけない。気怠く半分しか開いていない泉先輩の目に、全身全霊のももえがおを刻みつけた。
「……昨日会ってないだけでしょ」
数秒で視線を逸らし、にべもなくぶりっ子を避けて部室に入っていった。「ごめんね」ともりりん先輩が謝ってきたが、わたしは結構平気だ。安心すらしている。改めて見た泉先輩の目に、それほど冷たさを感じなかったから。
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やま(プロフ) - 更新待ってます!! (2021年9月19日 18時) (レス) id: 0eb68c7075 (このIDを非表示/違反報告)
柚子 - もえたん可愛いですね!私自身、ぶりっ子の事が嫌いまでとはいかないけど少し苦手意識があったんですが、この作品を読んでぶりっ子への意識が変わりました!ありがとうございます!これからも更新頑張って下さい!! (2021年8月24日 1時) (レス) id: 12dcb448c9 (このIDを非表示/違反報告)
夜瑠 - 面白くて、『一周回ってぶりっ子を許せる小説』から一気見しちゃいました!!皆大好きです!!次の更新楽しみにしてます!! (2021年7月19日 19時) (レス) id: ef33b3228d (このIDを非表示/違反報告)
桜夜桜もち - こんな一生懸命で可愛いぶりっ子なんて許す以外に方法あります…?! (2021年7月17日 15時) (レス) id: 54667db88c (このIDを非表示/違反報告)
豆の字(プロフ) - リカさんさん» ありがとうございます!!お楽しみいただけてとっても嬉しいです!これからもぶりっ子の可能性を発掘していきます!偏見や先入観だけで片付けるには、あまりにももったいない逸材なので……! (2021年7月16日 18時) (レス) id: dee9e908a6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:豆の字 | 作成日時:2020年3月30日 18時