4-15.ぶりっ子ちゃんの起点 ページ16
わたしのスマホを支えてもらった。握る力を失って手から滑り落ちかけていたらしい。自分の状態が他人事に思えてくるくらい、衝撃的だった。
「夏目
ひよりちゃん。りうむちゃんが、日和ちゃん。その本名を反芻しても、すぐには頭に馴染まなかった。
「……いいなぁ……」
落ち着いて、やっと言えた感想がその一言だった。夏目先輩はちょっと誇らしげだ。羨ましい。一人っ子だから、こんな可愛い妹がいたらと思う瞬間がある。
「無暗やたらに触れ回るなって釘を刺されてるから、親しい友達だけで留めてたんだけど、まさか百恵ちゃんが知ってたとは思わなかったから、つい……」
大きく一歩下がって、座っているわたしを注視した。外見だけでなく、そこから滲み出る雰囲気や生き方までまぶたの裏に写し取っているようだった。
「りうむの面影……気のせいじゃなかったんだ。百恵ちゃんも、お魚さんなんだね」
納得すると席に戻り、「内緒の話なんだけど」と声を潜めた。わたしはスマホを置いて秘密に耳を傾けた。もう画面は真っ暗だった。
「亜久亜りうむは……ひよは、幼い頃から引っ込み思案でね。特に初対面の人が怖くて、おれの背中にしがみついてそーっと様子を窺うような子だった」
まさか、あのりうむちゃんが。
「そんな自分がずっと嫌だったのか、一年前くらいに突然、変わりたいって言い出した。動画を撮って自分という存在をネットに晒して、お兄ちゃんみたいに堂々とした人になりたいって。最初は両親もおれも反対した。ネットは危険な世界だって。故意に人を傷つける言葉を使う人がたくさんいるって。でも、どんなに説得してもひよは折れなかったから、その覚悟を尊重することになった。両親に機材を揃えてもらって、独学で編集技術を身につけて、みんなから愛されるようなキャラを演じて、初投稿に漕ぎ着けた。……百恵ちゃん、りうむが初めて貰ったコメント、知ってる?」
首を横に振ると、初投稿の動画を開いて見せてもらった。慣れないぶりっ子口調でアクアリウムを紹介するりうむちゃんの姿がある。その下のコメント欄をスクロールして、最下層に辿り着いた。
『ぶりっ子きっも』
青ざめるわたしとそのコメントを見比べ、夏目先輩は慌てて返信欄を開いた。
『コメントありがとう♪ 今は未熟だけど、お魚さんから可愛いってちやほやされるステキな女の子になれるように、頑張ります♪』
4-16.ぶりっ子ちゃんの同志→←4-14.ぶりっ子ちゃんの発覚
423人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
やま(プロフ) - 更新待ってます!! (2021年9月19日 18時) (レス) id: 0eb68c7075 (このIDを非表示/違反報告)
柚子 - もえたん可愛いですね!私自身、ぶりっ子の事が嫌いまでとはいかないけど少し苦手意識があったんですが、この作品を読んでぶりっ子への意識が変わりました!ありがとうございます!これからも更新頑張って下さい!! (2021年8月24日 1時) (レス) id: 12dcb448c9 (このIDを非表示/違反報告)
夜瑠 - 面白くて、『一周回ってぶりっ子を許せる小説』から一気見しちゃいました!!皆大好きです!!次の更新楽しみにしてます!! (2021年7月19日 19時) (レス) id: ef33b3228d (このIDを非表示/違反報告)
桜夜桜もち - こんな一生懸命で可愛いぶりっ子なんて許す以外に方法あります…?! (2021年7月17日 15時) (レス) id: 54667db88c (このIDを非表示/違反報告)
豆の字(プロフ) - リカさんさん» ありがとうございます!!お楽しみいただけてとっても嬉しいです!これからもぶりっ子の可能性を発掘していきます!偏見や先入観だけで片付けるには、あまりにももったいない逸材なので……! (2021年7月16日 18時) (レス) id: dee9e908a6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:豆の字 | 作成日時:2020年3月30日 18時