4-27.ぶりっ子ちゃんの彼岸 ページ28
ふともりりん先輩が声を上げた。
「海馬先輩、アレはどうしたんですか？」
「アレ？」と個包装の煎餅を取る夏目先輩。
「ほら、生徒会室の……」
三拍くらいしてから、バキィッと手の中で煎餅が砕ける音がした。
「忘れてたぁ！ なんてこった！」
と机をひっくり返す勢いで席を立った。「何かあったの」と他人事のように尋ねる泉先輩と何も知らないわたしたちに、もりりん先輩は説明した。
「今日のレクリエーションに使う道具が生徒会室にあるらしいから、持ってきてもらうつもりだったの」
「そうそう、そうだったよ！ ここに来るまで確かに生徒会室にいたんだけど、近くの部屋からいきなりホラー映画顔負けの悲鳴が聞こえてきて、びっくりしてイスから転げ落ちてさ！ それで取る物も取りあえず駆けつけたら百恵ちゃんと蘭ちゃんがバケツ被って幽霊がいるーって震えてて、もう訳が分からなくてすっかり忘却の彼方だったよ」
「え……？ バケツ？ 幽霊……？」
幽霊騒動に立ち会っておらず事情を飲み込めていないもりりん先輩を置いてけぼりにして、夏目先輩は部室を飛び出した。
わたしと蘭ちゃんで事の次第を話そうとしたが、すでにもりりん先輩は概ね理解した風に夢野先輩を見た。泉先輩の他人事の眼差しにもほのかに興味が宿っている。その逃れられない疑惑に、騒動の張本人は砕けた煎餅の断面の具合を研究者よろしく観察して気づかないふりをしている。
「も〜いたずらが過ぎますよ洋先輩！」
「ごめんなsorry」
「もえたんねぐらん大丈夫？ 寿命縮んでない？」
「は、はい……縮んだとしても平気です」
「もぅすっごく怖かったですぅ〜！ びっくりし過ぎてぇ妖精さんが桃園でおてて振ってるの見えちゃいましたも〜ん！」
「三途の川じゃなくて何より」
冗談なのは分かっていても、夢野先輩が言うとちょっとシャレにならない。
「そういや私も初対面はそんな感じだったなぁ……。ビスケットを喉に詰まらせて窒息しかけたよ」
しみじみと言うと、何か閃いたらしく、ひとり距離を取っていた泉先輩を悪い笑顔で引き連れた。
「実はこう見えてね〜、凛子もビビってたんだよぉ」
その時、半開きの目がハッと見開かれた。それを見られた恥ずかしさか、即座に背中を向けて、
「ビビってないわ、気絶しただけよ……」
と定位置に戻りながら言い聞かせるように呟いた。その綺麗な墓穴の掘り方に、密かにわたしは親近感を覚えた。
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やま(プロフ) - 更新待ってます!! (2021年9月19日 18時) (
レス) id: 0eb68c7075 (このIDを非表示/違反報告)
柚子 - もえたん可愛いですね！私自身、ぶりっ子の事が嫌いまでとはいかないけど少し苦手意識があったんですが、この作品を読んでぶりっ子への意識が変わりました！ありがとうございます！これからも更新頑張って下さい！！ (2021年8月24日 1時) (レス) id: 12dcb448c9 (このIDを非表示/違反報告)
夜瑠 - 面白くて、『一周回ってぶりっ子を許せる小説』から一気見しちゃいました！！皆大好きです！！次の更新楽しみにしてます！！ (2021年7月19日 19時) (レス) id: ef33b3228d (このIDを非表示/違反報告)
桜夜桜もち - こんな一生懸命で可愛いぶりっ子なんて許す以外に方法あります…?! (2021年7月17日 15時) (レス) id: 54667db88c (このIDを非表示/違反報告)
豆の字(プロフ) - リカさんさん» ありがとうございます！！お楽しみいただけてとっても嬉しいです！これからもぶりっ子の可能性を発掘していきます！偏見や先入観だけで片付けるには、あまりにももったいない逸材なので……！ (2021年7月16日 18時) (レス) id: dee9e908a6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：豆の字 | 作成日時：2020年3月30日 18時
