4-22.ぶりっ子ちゃんの戦慄 ページ23
背中に、冷たくて恐ろしい何かがかじりついている気がする。振り返るのが怖い。でも振り返った。誰もいない。掃除用具入れが佇んでいるだけだ。なのに胸騒ぎがする。
「も、もぉ〜やだぁ蘭ちゃんったらぁ〜♡ 気のせい気のせい木の妖精ひらひら〜♡」
と羽ばたく真似をして茶化してみたが、笑みひとつ零さず真剣な顔のままだ。そもそも蘭ちゃんは冗談を言わない。段々と現実味が帯びてきて、即席のももえがおが凍りつく。
パサ、と教卓から小さな物音がした。両肩が強張った。見ると予備のプリントが落ちただけだった。なぁんだ、と胸を撫で下ろしたのも束の間、嫌なことに気づいてしまった。窓もドアも閉め切ってある。風の仕業ではない。もとから落ちそうになっていたのかもしれないが、些かタイミングが良過ぎる。
コンコン、と真横の窓からノックのような音がした。今度こそ風の仕業にしたかったが、今のわたしには内側から叩いたように聞こえる。手足に変な力が入り始めた。蘭ちゃんは身を縮ませながらも、何かを探るような目で注意を張り巡らせている。のちに「やっぱり気のせいだったよ」と笑ってくれるのを信じて、粟立つ肌を擦って砂の城のように脆い平常心を必死に保った。
そんな努力を全否定するように、蛇口を捻る音が鳴った。驚く間もなく、一番手前から奥の蛇口まで順々に水が勢いよく流れ出した。ありえない。ありえない。これは、何の言い逃れも出来ない。
「ふぇええぇえもえたん怖いよぉ〜……」
と蘭ちゃんの腕にしがみついてぶりっ子らしく怖がる演技をしたつもりだが、怯える声は紛れもなく本物で、もはやぶりっ子なのか素なのか分からない。意思に反して抱き締める力が千切れそうなくらい強まる。
わたしはホラー全般大の苦手だ。テレビで心霊番組が始まるや否や、お母さんが即座にチャンネルを変えるのが朝戸衣家の夏の風物詩といえるくらいだ。
「気配が消えた……?」
微かに警戒を緩める蘭ちゃん。霊感が皆無なわたしでも、なんとなく元の知っている空間に戻った気がする。ほっとしていつの間にか締め付けていた蘭ちゃんの腕を離した。
その瞬間、背後の掃除用具入れが勝手に開け放たれた。モップ、箒、ちりとり――我先にと大げさに音を立てて倒れ伏し、死骸のように散乱する。
人生で一番絶叫したと思う。
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やま(プロフ) - 更新待ってます!! (2021年9月19日 18時) (レス) id: 0eb68c7075 (このIDを非表示/違反報告)
柚子 - もえたん可愛いですね!私自身、ぶりっ子の事が嫌いまでとはいかないけど少し苦手意識があったんですが、この作品を読んでぶりっ子への意識が変わりました!ありがとうございます!これからも更新頑張って下さい!! (2021年8月24日 1時) (レス) id: 12dcb448c9 (このIDを非表示/違反報告)
夜瑠 - 面白くて、『一周回ってぶりっ子を許せる小説』から一気見しちゃいました!!皆大好きです!!次の更新楽しみにしてます!! (2021年7月19日 19時) (レス) id: ef33b3228d (このIDを非表示/違反報告)
桜夜桜もち - こんな一生懸命で可愛いぶりっ子なんて許す以外に方法あります…?! (2021年7月17日 15時) (レス) id: 54667db88c (このIDを非表示/違反報告)
豆の字(プロフ) - リカさんさん» ありがとうございます!!お楽しみいただけてとっても嬉しいです!これからもぶりっ子の可能性を発掘していきます!偏見や先入観だけで片付けるには、あまりにももったいない逸材なので……! (2021年7月16日 18時) (レス) id: dee9e908a6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:豆の字 | 作成日時:2020年3月30日 18時