1-10.ぶりっ子ちゃんの禁術 ページ11
恥ずかしいときに出るのは冷や汗というのに、火照る体をちっとも冷やしてくれない。もはや体どころじゃない。視界が熱い。陽炎のように揺らめいて、人の輪郭や机の直線がぐにゃぐにゃする。わたし自身は今にも沸騰しそうなのに、場の空気は、ただただ冷えきっていた。
落とし前をつけたかったのか、単に失敗を認めたくなかったのか、自分でもわからない。おそらく両方だ。破れかぶれになって、わたしは”最終兵器”を使った。
「あのね〜、もえたんには特技があるの！ 『ももえーる』っていってね、シュン……ってしてる子を元気づけるの！ もえたんに、ももえーるされてみたいひとー！ はい先生！」
「え？ 俺？」
黒板の隅で見守っていた先生に強引に話を振った。
「そう、大谷先生だよお♪ 先生はぁ〜、ちょっとだけ、髪の毛さんがシュン……ってしちゃってるよね♪」
口にしてからとんでもない失言だと気づいた。でももう手遅れだった。あっ……それはいけない……ライン超えてるよ……あいつ終わったぞ……と言いたげにみんなは青ざめ、気まずそうにわたしから目を逸らした。
でも今さら撤回しようとしても、とっくにブレーキは壊れていた。
「もえたんのももえーる、受けてみよ！」
手拍子をしながらぴょんぴょん飛び跳ねる。
「ふれっふれっ先生！ ふれっふれっ毛根！ 十円ハゲを♪ 一円ハゲに♪ 値切れ！ 値切れ！ 九円値切れ♪ 六ミリ違うよ♪ 五円と百円♪ 元気を♪ 送るよ♪ ももえーるっ♪ キラッ☆」
ものすごい顔で「放課後職員室に来い」と言われた。
先生に言われた通り、放課後に職員室に行った。半泣きで平謝りをした。ヤクザのカシラみたいな風貌なので、指を詰めろと命令されても文句は言えないと思った。けれども大谷先生は意外にも優しかった。
「何かあったんか」
頭を下げるわたしに、そう気遣うように聞いてきたのだ。渋みのある声は人に寄り添うような穏やかな調子だった。
さっきの自己紹介は誰かに脅されて無理やりやらされたのではないかと心配しているのだろうか。それとも単純にわたしの脳みそを心配しているのだろうか。いずれにしても、大谷先生は悪い先生ではないことに違いない。慌てて何もありませんと答え、何度目かわからない謝罪を付け足した。先生はあまり怒らなかった。いっそ心がズタズタになるまで怒鳴りつけてほしかった。良い先生なだけに、罪悪感は一層重かった。
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酔風 - 面白かったです…夏目先輩かっけぇ！萌ちゃん許せるどころかファンになりそう…。続編読んできます(｀･ω･´)ゞ (2021年7月25日 10時) (
レス) id: d8696aafac (このIDを非表示/違反報告)
夜瑠 - 夏目せんぱぁああい！！いつか、いつか言紡高校に入学してもいいですかっ！？！？ (2021年7月19日 17時) (レス) id: ef33b3228d (このIDを非表示/違反報告)
彩華 - 初めまして！こんな小説を求めていました！この小説を読んだ方が、ぶりっ子＝悪女とかでは無くて、ぶりっ子は一つの個性なんだなって思ってもらえると良いですね！ももたんめっちゃ好きです！頑張ってください〜！ (2021年7月17日 15時) (レス) id: da4daeacca (このIDを非表示/違反報告)
桜夜桜もち - 「ふんぬぁぁああ゛ぁあ゛ァあッ！゛！」 握力計ったときのこれ好きですwwwwwww (2021年7月17日 14時) (レス) id: 54667db88c (このIDを非表示/違反報告)
豆の字(プロフ) - 真白さん» ありがとうございます！！確かにぶりっ子の言動を見ていると、自分にも思い当たる節があったり……なんてことが自分にもあったりしました（笑）「ぶりっ子のふり見て我が振り直せ」ですね（汗）夏目先輩を好きになってもらえてすごく嬉しいです！ (2021年7月16日 18時) (レス) id: dee9e908a6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：豆の字 | 作成日時：2019年9月9日 17時
