お菓子を作ることが好きな少女はバターの味を知らない

あとがき〜詰め込むだけ詰めてみた〜 ページ35

　実はこの話、最初はバッドエンドの話にするつもりでした。
　Aさんとそうびちゃんが出会って、だけど唐突にお別れが来て、そうびちゃんは他の誰かとお見合いし、けれどすぐに別れて、子供に見送られながらひっそりと死ぬ……それをどう間違えればこの話にたどり着いたのだろうという。


　けれど、全三回にするはずが全五回、それが全十回に変更された後、ふと、私は思ったのです。


　食べるということは、一体何だろう。
　世の中には、インスタントやらレトルトやらサプリメントが存在し、それを日常的に多く使う人もいるでしょう。

　しかし、巷で流れる食品偽造や、薬品のニュースのように、その中に入っているのは、本当に安全な物なのでしょうか？

　食物アレルギーの子もいるし、宗教的な意味であるものが食べれない人たちもいる。また、腸や胃が弱い人たちは、刺激が強いものを食べるとお腹を壊してしまう。嫌いなものを身体に良いからと強制的に食べさせる人もいれば、『給食を残さずに食べなさい』という学校の方針の元、小食なのに無理に食べてしまう子もいる。戦争時代は嗜好品がダメだとか言って、食べるものは本当に少なかったり。


　人間は、というか生き物は、生きる為に食べる。
　けれどその行為はただ、事務的に行われるような、食べればいいというものなのでしょうか。

　私はそうでないと思いたい。
　生きる為に食べるのならば、それは決して、ただの流れ作業ではないはずなのです。
　ちゃんと、生きることを確認する。食事を楽しむ、食材を選ぶ、料理を作る、いただきます、ごちそうさまという、それは全て、自分が生きていると感じられる時。

　料理を作るということは、一人でも生きていける術を身に着けるということ。
　だけど料理を作ればわかる。人に食べて貰い、おいしい、と言われることが嬉しいことを。

　第三話を書いて、何となくこの話の核心的なものを見つけた時、そうびちゃんとその母親は、そういう人間なのではないだろうか、と思いついたのです。
　たった一人でも生きていける人。だけど、それを選ばないのはまた、料理で人を喜ばせることを知っているから。生きていることを、噛みしめることが好きな人たちなのだろうと思うと、この話は決して、バッドエンドでは終われないとそう確信しました。

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