食べることは生きること ページ29
古い本独特の匂いと甘い紅茶の匂いが、書斎に立ち込める。
その静かな部屋で、直太さん、そうびちゃん、そして僕は、沈黙を破れずにいた。さっきから紅茶の啜る音しか聴こえない。
居心地の悪い空間。当事者ではない僕でさえ逃げ出したくなるような時でも、父娘は互いに席を離れなかった。親子で似た者同士なのだろう。
卓上の上にあるスコーンは、そうびちゃんも直太さんも手につけていない。恐らくそれは、バターも牛乳も使っていないお菓子で、彼らの閉まっていた記憶の箱の鍵。
僕はそれを、ぞんざいに掴んで食べた。
「うん、美味しいよ」
困惑した表情を浮かべるそうびちゃんを安心させる為に、僕は笑おうと思ったけれど、それは無理だった。もう既に笑顔になっていた。
美味しいものを食べることが、こんなにも笑顔にさせてくれる。酪農家だった父が言っていたことを、今更ながら思い出した。……そうだ、彼女の作る料理は、とても美味しい。
時に人を殺すものだったとしても、料理は、人を生かし、人を和ませ、人を癒すものであることには変わりない。なにせそうびちゃんのお母さんも、食べて言ったのだ。「おいしい」と。
食べなきゃはじまりませんよ。僕は無言で、直太さんに促す。
直太さんは、少し苦笑いをして、スコーンに手を伸ばした。
サクリ、と小気味いい音が沈黙を破る。一口食べた直太さんは、目を見開いた。
「……カミさんそっくりの味じゃねえか」
その言葉を聞いて、今度はそうびちゃんが目を見開く。
直太さんはスコーンを食べることに必死で、そうびちゃんの様子には気づかない。やっと食べ終わった後も、直太さんは俯いていた。さっきから顔色が優れないそうびちゃんは、直太さんがどんな顔をしているのか気になって仕方がないようで、そわそわしている。
「……あのな、ここからいう話は、嘘じゃないからな」
俯きながら、それでも必死に、その父親は言葉を紡いだ。
「お前の母さんな……余命宣告受けていたんだ」
「……え?」
意外な話から始まった。それは僕は勿論、そうびちゃんも知らないことのようだった。
「お前が二歳になってまだ間もない時に受けたんだ。
あいつは、自分が近いうちに死ぬとわかった後、三歳になったお前に、包丁の使い方を教えた。覚えているか?」
「……なんとなく、覚えている」
三歳で既に包丁を持たせるって。
- 金 運: ★☆☆☆☆
- 恋愛運: ★★★☆☆
- 健康運: ★★★★★
- 全体運: ★★★☆☆
ラッキーアイテム
革ベルト
ラッキーカラー
あずきいろ
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西 - この方角に福があるはずです
おみくじ
おみくじ結果は「末凶」でした!
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The Freedom.(プロフ) - 火矢 八重さん» はい、頑張って下さい! (2014年4月20日 21時) (レス) id: b11641b752 (このIDを非表示/違反報告)
火矢 八重 - The Freedom.さん» 忘れませんよ、あの作品でたった一人コメントしてくださったんですから!w うお!? 期待されてる私!? じゃあどしどし作品作らないと!! コメントありがとうございますた! (2014年4月20日 20時) (レス) id: fc178a757e (このIDを非表示/違反報告)
The Freedom.(プロフ) - 火矢 八重さん» あ、覚えていてくれたんですね!嬉しいです!いやあ、覚えて無いかな〜と思って一応初めましてからにしたんですよね…;;また他の作品も沢山見に行きますね! (2014年4月20日 20時) (レス) id: b11641b752 (このIDを非表示/違反報告)
火矢 八重 - The Freedom.さん» うお!? 五か条読んでくださった方ですね!? こちらの作品も読んでくださりありがとうございます!! 私も、この後腐れないあっけらかんとした終わりが気に入っているので、凄く嬉しいです! こちらこそ、ほんとうにありがとうございました!! (2014年4月20日 19時) (レス) id: fc178a757e (このIDを非表示/違反報告)
The Freedom.(プロフ) - 初めまして!完結おめでとうございました( ´ ▽ ` )。作者さんのこの作品、読むたびに惹きこまれていきます。個人的に終わり方が特に好きです。素晴らしい作品を読ませて頂き、ありがとうございました! (2014年4月20日 19時) (レス) id: b11641b752 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:火矢 八重 | 作成日時:2014年2月15日 20時