お菓子を作ることが好きな少女はバターの味を知らない

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　同じ父親なら、似たような答えを持っているんじゃないかとか、そんな期待はなくはなかったけれど。

「親は、子供を助けるためなら、命を掛けれると思いますか？」

　それ以上に、何時かそうなるかもしれない身である僕は、聞きたかった。
　親も子と同じように人間なのに。大抵の人なら死ぬのが怖いハズだ。なのに、何故世の中では、子供を守るために命を懸けることが親の務めと謳われているのだろう。
　僕や妹を励ますために、「君たちを守るために死んだのなら、お父さんも本望だろうよ」と言った大人たち。本当に、そうなんだろうか。自分が父親になって、子供が死にそうになった時、僕は、命を懸けたいと思うのだろうか。


「……随分と対象が漠然とした問いだな」
「すみません……」
「いや、謝らなくていいよ。……ただ、おめえさん、一般解答や模範解答を望んでるわけじゃねえみたいだな」


　やっぱりこの人は鋭い。


「……血のつながりがあるから、必ず愛されるとは思わねえ。子供も親も人だ。性格が良くても悪くても、相性ってのはあると思うよ。それは仕方ねえ。人だからな」


　でも、何か僕が求めている解答とはちょっと違うような気がした。
　……この人は、僕が親と不仲になっているとでも思っているんだろうか。良いわけではないが、喧嘩したわけではない。と思う。


「でも、だからと言って、子供が親よりも先に死んでいいなんてことはねえんだ。愛されていなくても、愛せなくても、親は子供を死なせちゃいけねえんだ」
「……どうしてですか？」


　理由なんて、ないって判ってた。聞いても困らせるだけだろうに、僕は尋ねた。
　……そして、彼は、そんな僕の予想を裏切った。


■

　帰って来たそうびちゃんに、弁当とデザートが美味しかったことを伝えると、そうびちゃんはとても喜んでくれた。
　……直太さんのことは、言わなかった。多分、直太さんはそうびちゃんと顔を会わせづらいから不審者っぽいなりをしていたのだろうから。


『んなの決まってらあ。神様が決めたことだよ』


　バターが入ってない、ガトーショコラを頬張りながら、あの人は言った。
　なんて子供だましな方便だろう。なんて、無宗教者である僕は思う。


　それでもその言葉は、ずしりと来た。
　父が亡くなった後、僕らに向けられたどんな慰めよりも、一番、僕の心に届いたのだ。

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