君の他には何にもいらないよ

ゆでガエル ytin ページ11

アンダンテでアルデンテ の続き
ytin
……………………………………………………………

ふらふら楽屋の方から歩いてきたいのちゃんを抱きしめた。
頰が真っ赤に腫れて、ただでさえ痛そうなのに、当の本人は何でもない顔をしている。

胸がぎゅっと痛くなるけど、俺が悲しんでる場合じゃないんだ。

損な役回りを進んでやってくれる人だって、知ってた。
かっこいいお兄ちゃんだなって、尊敬すらしていた。
でも最近では、それに慣れてしまったみたいで、自分が傷ついてるって感覚が鈍くなっちゃってる。

ねえいのちゃん、知ってるよ。

薮くんのこと、好きだったんでしょ。

廊下で2人っきり、抱き合って馬鹿みたいだね。

「やぶひか、ちゃんとくっつくかなぁ」

「お馬鹿ないのちゃんが体張ったんだから、そうなってもらわなきゃ困っちゃうよ」

そうだね、って俺が強く抱きしめたせいでくぐもってるけど、やっぱり何でもなさそうな声が聞こえる。

ゆっくり、じわじわ、侵攻してきた呪いが、いつのまにかいのちゃんの頭をおかしくしちゃったみたい。

ねえいのちゃん、本当は泣いているんでしょ。

ねえ、本当は心がズタズタになってて、叫びたいくらい痛い筈だよ。

でも言葉にできなくて、ひたすら強く抱きしめた。

.→←.

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す