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「ミス・グリンデルバルド」
そのとき、廊下には誰もいなかった。
少し早めに着いてしまっていたから。
ユリは甘ったるい声とともに首元でプツ、と音がしたのを感じて、振り返る。
アンブリッジが、ユリの大事なカルセドニーのネックレスを掲げて、そこに立っていた。
あっと思って首元を見、アンブリッジに奪われたのだと理解した途端、ユリの頭はサーッと冷えた。
アンブリッジはいつもの作り笑いを浮かべていたが、どこかそれも硬かった。
先日ウィーズリーの双子が大騒動を起こしてそのまま箒に乗って退学し、大勢の生徒がそれに触発されて悪質な悪戯を次々に仕掛けるので、アンブリッジの鬱憤は頂点に達していた。
それをユリで今晴らそうと思っているのは、ユリ自身にもわかった。
でも、いつもどおり冷静になるのは、ちょっと無理そうだった。
そのペンダントだけは、おじいちゃんとおとうさんの愛の結晶だけは、ダメなのだ。
それはユリの竜骨であって、逆鱗なのだ。
「返してください、アンブリッジ、先生」
ユリがわざとゆっくりそう言うと、アンブリッジはニターッと笑って首を横に軽く振った。
「いいえ、ミス・グリンデルバルド。このような華美な装飾品は、学生生活にはふさわしくありませんわ」
「校則にも教育令にも、そんな決まりはありません」
「個人の道徳の問題ですのよ、これは」
アンブリッジはペンダントをゆらゆら揺らし、覗き込んで、「ま、ダイヤモンド」と呟いた。
ユリはグッと唇をかんで、つかつかとアンブリッジに歩み寄り、手を伸ばした。
力づくでも奪い返そうと思った。
だって、それがないと、ユリは嫌なことがあったときに平静を保てない。
ただでさえおじいちゃんに会えないのに、それまで取り上げられてしまったら。
アンブリッジはギョッとして、身を引いた。
そのとき廊下に生徒がなだれ込んできて、アンブリッジは始業時間が間近なことに気づいたようだった。
早くここから去ろうと身を捩るが、ユリの左手がピンクのカーディガンをがっちりつかんで離さない。
生徒たちはなにやなにやと二人を遠巻きにした。
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作者名：にはろ | 作成日時：2023年2月18日 22時
