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しとしとと雨が降っている。
ロンドンのグリモールド・プレイス十二番地にある不死鳥の騎士団の本部は、古びて傷んではいるがどっしりとした家だった。
訪問客用の銀のドア・ノッカーは、一匹の蛇がとぐろを巻いた形だ。
鍵穴も、郵便受けもない。
ダンブルドアが杖を取り出し、扉を一回叩いた。
カチッカチッと大きな金属音が何度か続き、鎖がカチャカチャいうような音が聞こえて扉がギーッと開いた。
「さあ」
促されるまま敷居を跨ぎ、ほとんど真っ暗闇の玄関ホールに入った。
湿った埃っぽい臭いはあるが、人が生活している気配がある。
振り返ると、ダンブルドアが黒い傘を左手にユリを見守っている。
「わしは顔は出さん。さあ、行きなさい」
にこ、とダンブルドアは笑った。
「また、学校での」
重い音を立ててドアが閉まり、鍵のかけられる音がした。
ホールは完璧な暗闇になった。
ユリは途方に暮れたが、ふと思い出してリュックを手探り、ライターを取り出す。
クリスマスに貰った「灯消しライター」だ。
それを掲げてカチッと鳴らすと、柔らかいジュッという音が聞こえ、旧式のガスランプが壁に沿ってポッと灯った。
ぼんやりと廊下を照らすその光に、ユリはなんだか泥棒に入っているような気持ちになって、抜き足差し足で奥へと進んだ。
トロールの足を切って作ったのではないかと思われる巨大な傘立ての脇をすり抜けると、暗い階段がある。
どうやらその階下から大勢人の気配がしていた。
暖かい空気だ。
バタービールとごちそうの匂いがする。
ホグワーツの壮行会だろうか。
これはもしかすると、最悪のタイミングで来てしまったかもしれない。
ユリは今、自身が歓迎される身ではないことに気づいていた。
ハリーがいるなら、他の二人もいるだろう。
きっと下にいるのは、ダンブルドアが集めた闇の勢力に対抗する魔法使いたちだ。
そんな彼らが、「日刊予言者新聞」の記事を、あんな小さな記事だとしても、読んでいないはずがない。
立ち尽くしていると、階段を上がってくる足音がする。
ユリはそのまま動けずに、暗がりに目を凝らした。
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作者名：にはろ | 作成日時：2023年2月18日 22時
