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無論、無惨はさっさと我にかえり双子を仕留めようと腹に力を入れたが、息子は素早くそれに反応し、妹の襟を引っ掴んでスタコラと逃げ出す。
無惨は視界から獲物の姿が消えたので、面倒臭くなって追うことはなかった。
多分、老いである。
正直数百年も生きていると、いくら性根が腐っていようと割と諦めが良くなる。
今の無惨はそれだった。
大して動いてもいないのに「ハー、疲れた」と自室に入り、暫くボンヤリしたあとふと思い立って指を鳴らす。
いつも最悪に向く気紛れが良い方に作用した、彼にしては珍しいパターンである。
その頃、双子は今朝方やっと見つけた風呂場にいた。
鉄砲風呂は空っぽで、なんの意味もない木桶が佇んでいるだけだった。
「風呂ォ……」
やっと身体を流せると無惨に押しかけたが、返ってきたのは予想通りの反応で、Aは残念につぶやく。
「だから言ったろ。無駄だって」
「朔久もどさくさに紛れてなんか言ってたじゃん」
「あ?腹はいつだって減ンだよ」
「食堂くらいあるんじゃない?こんだけ城デカいし」
「そ……ウオッ」
それもそうだな、と言おうとしたとき、ジャーッと音がしたので驚いて飛び退る。
恐る恐る見れば、風呂に湯が溜まっていくところだった。
「エーッ」
朔久は驚きで、Aは歓喜で声を上げた。
待ちに待った湯舟である。
少し考えれば無惨がやったのだと分かった。
しかし朔久は冷静である。
だって、殺そうとしてるんだぜ。
毒でもなんでも入ってるかも。
そう思って、口に出そうとして、目を剥いた。
「あっ、お!バカお前!」
朔久より一本か二本頭のネジが多めに飛んでいるAは、残念ながら既に湯帳も纏わず風呂に肩まで沈んでいた。
そして、なんともないのである。
「なんですか?」みたいな顔で朔久を見やり、すぐに興味を失って目を閉じた。
「キモチ〜〜〜〜ッ!」
だからコイツは嫌いだ!!!
朔久は口に出す勢いで思った。
思って、ヤケになって服を剥ぎ取り木桶に飛び込む。
「オイお一人様までだよ!!」
「テメー出ろ!」
「死ね!」
湯がたくさん溢れて、双子はギュウギュウになりながら口をデカく開けて笑った。
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作者名:にはろ | 作成日時:2021年5月24日 16時