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チチ、と小鳥の鳴き声が聞こえた。



己の意識が浮上していくのがわかる。

そうして、鬼舞辻無惨は何十年ぶりにその瞳をのぞかせたのだった。


部屋は薄暗く、窓を覆う布の外に太陽があるようである。

暫くぼうっとして、紙をめくる音に首を横に向ける。


するとそこには、愛しきやし娘が座って本を読んでいるのであった。


夢見心地で声も出せずいると、Aがふ、と顔を上げる。



そして無惨と目が合った瞬間、ガタ!と立ち上がった。





「エッ、アッ……エッ!?さっ、ちょ、ちょっと待ってて!」





ドタドタと騒がしく駆け去っていく娘に呆然としていると、間もなくドタドタが二つになって部屋に特攻してきた。


「親父!?」


朔久が猛突進から止まり切れず扉の縁に激突したが、構わずAは入ってくる。

半歩遅れて朔久も無惨に駆け寄った。


無惨は身体を動かせず、声も出ず、ただこどもたちを見やるばかり。

そんな父に対して双子も何から言えばいいか、口を開いては閉じるを繰り返した。


どうしよう。

話したいことがありすぎて。

待っていた時間が長すぎて。


やがてAがぎこちなく言う。


「お、おはようッ」


その言葉にも、無惨は瞬きをゆっくりすることしかできなかった。

それに気づいた朔久がAの背中をバシンと叩いて言う。


「おい、水。喉乾いたろ親父。今持ってくるから」


一人が行けばいいのに、双子は競うように部屋から出ていった。


ようやく頭の整理がついて、無惨は息をつく。


どうやら助かったらしかった。

それも、あの子らのおかげで。


己は生き延びた。


Aも、朔久も、生きている。



双子は今足音を騒がしくしなければ行動できず、こちらに向かってくる様子が容易に想像できた。

変わらんな、と思う。


朔久が見たこともない容器からAの持っているガラスの器に水を移す。


息子に身体を支えられながら無惨は身体を起こすと、水を差しだした娘の手を右手でそっと掴んだ。

そして、もう片方の手を頬に添える。


それは老人のように水分を失い、皴の多い手であった。


親指が目尻を撫でると、それは簡単に零れ落ちた。




「お。親父、起きてよかった」

「……」

「ずっと待ってたよ」

「……」

「し、し、……死んじゃうかと、思った」



それは生まれて千年。

初めて感じた情愛であったかもしれない。




ぼろぼろ涙をこぼす娘に、無惨は眩しいように目を細めた。






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作者名:にはろ | 作成日時:2021年5月24日 16時

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