38:満月が没す ページ38
.
他の鬼は死んだ。
無限城も、既に崩れ去って。
夜明けが来た。
肉体を大きく膨れ上げて。
逃げなければ、生き延びなければ。
自分が死んだらどうなる。
鬼殺隊は喜ぶ。
アレらの繋いだ想いは達される。
では、あの子らは?
無惨は赤子の中で鬼殺隊の少年に手をかけた。
その時。
「親父ッ!」
声がした。
ドラ息子とバカ娘の声。
吁々、大人しく日陰で待っておれと言ったろうに。
戦いの始まる前に、あれほど、あれほど。
ろくに言いつけも守れんのかあの馬鹿どもは。
「コイツ!コイツに今の自分の血全部入れて!私のと入れ替えるから!!」
叫んだのはAである。
朔久も続く。
「誰か知らんけどごめんな!」
「謝る必要ないよ。コイツ私の飴細工粉々にしてっからな」
私怨である。
無惨はもう声を出すのも億劫で、考える素振りもなく、首を虚ろに振った。
……横に。
「なんで!?」
「え、これホントに親父?」
ほぼ無意識の内だった。
お前の血と入れ替えるとはどういうことだ。
それは、私の生の前に、お前の死に繋がりはしないか。
一方で双子は本当に焦っていた。
もうすぐ赤子が燃え尽きる。
その前に退かねば太陽に灼かれるか鬼殺隊に殺られてしまう。
「破裂しろ!昔やったんだろ!?全部拾ってやるから!オラ早くしろ!」
朔久は怒鳴った。
それでも、無惨が動く気配はない。
九尾から聞いた話では経験があるはずなのだが、様子がおかしい。
「無理そ……多分薬でも打たれたんでは」
「クソ、できねんなら小さくなれ!早くしろ!はーやーく!」
朔久はもう既に最大限身体を縮めていた。
あと少しで足が太陽に晒される。
「俺焼ける!俺焼けるから!」
父親は助けたいけど自分は死にたくない一心で、朔久はひたすら叫んだ。
親父が生きるため。
三人で生きていくため。
すると。
「え!?なんでゴキブリになんの?バカか!?」
「……バカだろ。俺らの親父だぜ」
「それはそうか。でも私持ちたくないよ」
鬼舞辻無惨は最後の力を使った。
そうして、ちょっとデカめのゴキブリになったのであった。
娘はいろいろ思うところがあって泣きながら、息子は少し太陽に焼かれながら。
父親はゴキブリになって、奇妙奇天烈な家族は駆けだした。
.
67人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:にはろ | 作成日時:2021年5月24日 16時