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「五目うどん。シイタケ抜いてね」
「あいよ」
浅草に着くなり無惨に放ったらかしにされているAは、街の外れにあるうどんの屋台に腰を下ろした。
さっきから酔っ払いに絡まれるわ、走ってきた少年に突き飛ばされるわで散々なのである。
飴細工落として粉々になったし。許さんあいつ。
うどんを出され、外に座っている女の子が気になったので隣に座った。
なぜか竹を咥えている。
人待ちか?と思いながら話しかけた。
「君も鬼なん」
無反応。
え?アチキの心は折れそうなんだが。
さっきの少年も然り。世界、自分を認識してない?
アッそうですか結構です〜。
Aはうどんを食い終わりごちそうさま、と席を立って、再び街の方へ歩き出す。
途中で突き飛ばしてきた少年とすれ違った。
見たところ、さっきの女の子と兄妹のようである。
どうりで!
ケッ、と転がっていた石ころを蹴飛ばした。
そうして暫く街を歩き、今度は平和に浅草を満喫する。
なんだか警察が集まっている場所があったが、無視した。
関わったら面倒になるのは目に見えている。
日付が回りそうな頃になって、Aは無惨を探した。
アイツ、集合場所も決めずに消えたし、なんならもう私を置いて帰っているかも。
たくさんお小遣いくれたし、もうこのままトンズラしようかな、と思っていると、発見した。
「うー…………わ」
路地裏の暗闇の中、ものすごく機嫌が悪そうである。
や、悪そうなんてものじゃない。
今なら殺される自信ある。
「マジか……」と様子を伺おうとしたが、向こうの気づくのが早かった。
ずかずかとこちらに近づき、Aの髪を引っ掴んで路地裏の壁に押し付ける。
そして、口を開く。
「私の顔色は悪く見えるか?私の顔は青白いか?病弱に見えるか?長く生きられないように見えるか?死にそうに見えるか?」
「……見えん」
無惨の不機嫌は今に始まったことではない。
むしろ上機嫌の方が怖いまである。
だから、Aはこの状況でも「何言うてるんお前」的な態度で答えた。
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作者名:にはろ | 作成日時:2021年5月24日 16時