32:子は父の為に ページ32
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「うわ。入ってきた。なになになになに」
「うわとはなんだ。なにとはなんだ。私の城だぞ」
「知ってるよ。そうじゃねンだよ」
Aがいつも通り風呂に浸かっていると、何の前触れなしに無惨が突入してきたという状況である。
コレ殺されるのかなとAは思った。
気まぐれな男だから、何を考えているのか全くわからない。
多分このコレは、なんの他意も無く入ってきたものと思われた。
別に裸を見られても父親だから関係ない。
けど無惨は無遠慮なので、近づいてきてじろじろ見て、言い下した。
「ちいちゃな乳だな。母親は大きかった覚えがあるが」
「それ人違いだよ。母ちゃん今の私よりお…ちっちゃかったもん。てか見んなよ変態爺」
いろいろ最悪である。
今の無惨はただの変態親爺であった。
見たままを口にしただけであったのに。
今度はAの方がじろじろと無惨の若い身体を見て、口を開いた。
「親父傷あんね。鬼なのに。人間のときの?」
「ン?……ああ、コレな。偶に出る。恐ろしい化物が私を切り刻んだ。戦国の時であったかな」
今宵の無惨は饒舌であった。
すこぶる機嫌がいいのだ、妓夫太郎が鬼殺隊の柱を一度に三人も殺したから。
右手を湯から出して、指鳴りをした。
すると、風景がガラリと変わって、いつの間にやら風呂には盆に乗った酒が浮いている。
見上げれば、満月だった。
外である。
「あ」と、Aは思った。
ここ、昔母ちゃんと朔久と入りにきてた。
無惨を見上げれば、月を眺めながら盃を揺らす。
彼は美しかった。
瞳はよく見ると哀しげであった。
月光は結局日の光の反射なので、髪がちょっと焼けた。
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作者名:にはろ | 作成日時:2021年5月24日 16時