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日本の夜が明けた。
それでも相変わらず、Aは昼寝、朔久が九尾に貰った本読みをしていると。
突然、襖が開く。
朔久は勢いよく振り返り、その姿を認めるなりAを庇うように腕を伸ばした。
入ってきたのは、鬼舞辻無惨その人である。
今日は赤い羽織を羽織って、頭には白い中折れ帽を乗せていた。
「何しに来たよ」
朔久は無惨を睨み上げながら低く言った。
今日は特別機嫌の悪い日でもなかったはずだが。
ついに喰いに来た、と思った。
無惨が本気を出せば妹は殺されてしまうだろう。
息が荒くなる。
背中を嫌な汗が伝った。
無惨が一歩、踏み出す。
朔久はAの襟首を後ろ手に掴む。
もう一歩。
腰を上げて、低く姿勢を取る。
もう一歩踏み出したら、逃げ出すつもりだった。
それを察知したのか、無惨はAをちら、と見る。
鬼の王の前で呑気に寝こけている姫君である。
無惨は、何を思ったか被っていた帽子を脱いだ。
それを、朔久へと勢いよく投げつける。
予想外の攻撃に、朔久は慌てた。
数瞬の隙の中で、「あ、死んだな」と思った。
妹も自分も諦めて、ぎゅっと目を瞑る。
しかし、いつまで経っても意識が消えなかった。
帽子はとうに顔に当たって地面に落ちている。
恐る恐る目を開いた。
すると視界の端に赤が映って、ゆっくり振り返ると。
「……は？」
そこには、変わらずすやすや眠っているAの姿があった。
無惨はいない。
先ほどと変わったところと言えば、彼女の身体に赤い羽織が掛けてあるところ。
朔久の思考はぐるぐる回り、数秒後にそこへ辿り着いた。
賢い少年であったが、こればかりは叫ばずにはいられない。
「はあ！？！？」
鬼舞辻無惨、昼寝をしている娘に羽織をかけてやる、いい父親である。
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作者名：にはろ | 作成日時：2021年5月24日 16時
