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天狗に嵌められた猩猩のときは本当に必死でほとんど何も覚えていない。
ヴァンパイアを殺すときはどうしたんだっけ。
相手は朔久の打撃でも傷一つつかん。
考えていると、ダイダラの投げた岩の飛礫が直撃し吹っ飛ばされる。
「ゲ、ォほ」
危なかった。
鬼じゃなかったら死んでた。
これは、頭が割れた。
目に血が入って何も見えない。
来るんじゃなかった。
来るんじゃなかった。
はっ、はっ、と荒く息を繰り返し立てずにいると、急に身体が持ち上げられた。
「全く、世話のかかる。これでは熊を殺せるかどうかも怪しいわな」
無惨の声だ!
親父が助けてくれた。
「イヤ熊とあれじゃどう考えても格違うでしょ。てか親父のそのサソリみたいなのズルい。俺もやりたいそれ」
朔久の声もする。
だいだら法師の気配はもうしない。
無惨が殺したのか。
ぐい、と目周りがゴツい手で拭われた。
やっと目を開ける。
「……死ぬと思いました……」
「そうだろうな」
無惨は鼻で笑った。
今の彼は腕が四本あって、Aと朔久と、いつの間に殺した熊を持って悠々と無限城に帰っていくのであった。
「朔久いい加減野菜食べなよ」
「ヤだ」
そして親子は三人仲良く鍋を囲んでいた。
無惨が城に帰った途端当然のようにどこかへ行こうとしたので双子が力ずくで引きずってきたのである。
まあ、双子の力ずくで本当に嫌がる無惨が来るわけもないので、そこはご愛敬。
「親父なんとか言って!コイツの野菜食べないの鬼だからとかじゃなくて食わず嫌いだから!」
「親父も緑食ってねえよ?これは実質二対一。よってお前の負け」
初めての家族団欒はとにかく騒がしかった。
双子が喧嘩するのを他所に無惨は「意外とイケる」と思いながら熊肉を小さな口でちまちま食っていた。
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作者名:にはろ | 作成日時:2021年5月24日 16時