27 ページ27
.
「親父!俺ら熊狩って来たいんだけど!」
「は?」
それは、唐突であった。
無惨の自室にドカンと押し入り、そう言ったのは朔久である。
珍しくげんなりしたAが後ろについていた。
「いや止めたんだけどさあ。どーうしても熊鍋食いたいってさあ……」
呆れたように指さしながらAが言う。
何故急に、何故今、という問いに答えることはできなかった。
それは何故なら、朔久が今食べたいと思ったからに過ぎないからである。
バカなんだろうか。
きっとそうである。
今コイツは己と妹が囚われの身である自覚がないのだろうな。
当然、答えは否である。
「貴様の腕切り落として食えば良かろ」
「は?それ熊鍋じゃねえし。バカなのか?」
バカはお前だ。
無惨は額に青筋を立てた。
それでも殺しに出ないのは、無自覚に父親として怒っているからであった。
「貴様らを外に出すわけがなかろうが。身の程を知れ」
「それは親としてどうなのか?可愛い子には旅をさせろよ」
「可愛い子?そんなものは見当たらん。出ていけ」
「お前友達いないだろ!そんなんだから子どもが反抗期になるんだぞ」
珍しくAが諫めるにもかかわらず、朔久が退く気配はない。
「じゃあこうすれば?親父も来いよ」
「行かん」
「楽しいよ熊狩り」
「行かん。消え失せろ」
そうは言われても、こちとら数十年外に出ていない。
いつも無限城を走り回り破壊しているのは、鬱憤がたまっていることも要因の一つである。
それからも、朔久は懲りずに無惨に頼みに来た。
毎日、毎日。
機嫌が悪い日などは何度もあって、その時は殺されかけたが本当に懲りない野郎だった。
.
67人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:にはろ | 作成日時:2021年5月24日 16時