24:雪融け ページ24
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二年が経ち。
双子が無限城にやってきて初めて、上弦が集められていた。
上弦の鬼が鬼殺隊に殺されたからである。
まあしかし主には無惨のストレス発散の場であった。
が、俄かにドタドタと騒がしい音が聞こえてくる。
鬼たちは何事かと腰を浮かせた。
想定外の事態である。
無限城に敵が入り込むなどありえないが、無惨の説教の途中に音が聞こえてくるのもありえない。
ただ一人、無惨だけは事の次第が見えて「ああ、またか」と疲れ切ったような顔をした。
それはまさしく、イヤイヤ期の子どもを持つ母親の顔であった。
あれだけ口を酸っぱくして耳にタコどころか魚の目ができるまで言い含めたのに。
あれだけ、「部屋から出るな殺すぞ」だとか「喋ったら貴様らの脳漿と脊髄で酒を飲んでやるからな」だとか「死ね」「死ね」「殺す」と何度も言っておいたのに。
その姿が見えた時、無惨は鬼どもの存在も忘れて怒鳴った。
「貴様ら、大人しくしていろと言ったろうが!」
無惨が真っ当そうに叱るとは。
鬼たちは驚いてそちらを見る、と。
「だってさあ、聞いてよ!コイツ俺が大切に飼ってたゴキブリ叩き潰したんだぜ?折角見つけて育てたのに!」
「コイツ部屋ン中でゴキブリ飼ってんだよ!なんとか言ってやってよ!てか部屋分けて!」
子どもが二人、追いかけっこをしていた。
事情を知る童磨だけが乾いた笑いを見せる。
無惨は眉間を抑えてため息をつき、二人のもとへ移動すると、その脳天に拳骨を入れるのだった。
いろいろ仕方がないので、手加減をしている。
今の無惨は現代で言うところの、シングルファーザーであった。
鬼の王たるシングルファーザーは、ドラ息子たちを叱る。
「部屋の中で塵被りを飼うな。お前は殺生をするな」
「あんたに言われたかないね」
「ゴキブリってもともと部屋にいるぜ」
すべて正論である。
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作者名:にはろ | 作成日時:2021年5月24日 16時