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父とはひと月ぶりの再会である。
九尾と双子は無惨と対峙し、事の次第を説明された父はでかくでっかくため息をついて、悩まし気に額を右手で抑えた。
息子と娘はどうやらジジイどもに好かれるらしい。
何故かは知らんが…。
そんな無惨をよそに、九尾が双子に話しかけた。
「お父さんにいじめられたら遠慮せずおいで。匿ってあげる」
「ありがとうございます」
Aが素直に礼を言った。
そんな娘の襟を無惨は引っ張る。
Aの口からは車に引かれたヒキガエルみたいな音が出た。
「誑かすな、狐」
「おや。春の年頃で心配かな」
「コイツはいずれ私が食う。貴様なんぞにはやらん、薄揚でも食っていろ」
「ほらおいで」
九尾は、自分でおいでと言ったくせに勝手に無惨からAを奪った。
目にもとまらぬ速さである。
そして何もなかったように九尾はAの頭をうりうりと撫でる。
娘がそれにほっぺたをふにゃふにゃにして笑うので、父はなんだか面白くなくてすぐにそれを奪い返した。
九尾は九尾で満足したようで、片手を上げて踵を返す。
襟首が取っ捕まったままのAは上を見上げて言った。
「親父ただいまー」
にこにこにこにこ笑うAの顔を無惨は暫く見下ろしていたが、やがて何を思ったか彼女の膝に片腕を入れ、抱え上げてしまった。
朔久はそれをじと、と見る。
なんだかこの親父、娘をかわいがっていないか?
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作者名:にはろ | 作成日時:2021年5月24日 16時