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そんなとき、珠世と名乗る鬼の女が訪ねてきた。
どうやって知ったのか、三人の事情を把握している。
珠世は、自分は無惨の呪いから解放されているとしたうえで、鬼舞辻無惨についての一切を語って去っていった。
そこで、お多喜は自分では鬼舞辻無惨に敵いようもないことをはっきりと確信した。
この頃には、お多喜の中に情が芽生えていた。
二人の子どもは無惨とは違う。
なんとか十五になるまでに、きちんと育ててやりたいと思った。
それから毎晩、お多喜は二人に人の道徳を話して聞かせた。
人から物を盗んではいけない、人を殺してはいけないなどの決まり事ではない。
「ひとを想う、心を持ちなさい」
十二を過ぎて昼間反抗気味の双子も、この時だけはそっぽを向きながら静かに話を聞いていた。
そうして十五年が経ち、涼しげな秋の夜。
遂に無惨がやって来た。
寝ていたお多喜を一切の躊躇なく殺し、同じく横になっていた双子の襟を掴み上げた。
覚醒した二人は瞬時に状況を理解し、母親が殺されたことを知る。
放り出されたAの方に無惨が歩み寄るのに、朔久が立ちはだかった。
無惨を睨み上げる朔久を、無惨は睨み返した。
ゆっくりと口を開く。
「……母親から聞いていないか？私が貴様らの血親だ。明朝貴様らが陽の光に順応していることを確認次第喰う。逃げられぬよう少量血を与える」
珠世から無惨の血の呪いの話は聞いていた。
恐らく実の子である自分たちには直接の無惨の血は入っていない。
だが、今血を与えられれば無惨に行動の全てを制約されてしまう。
朔久がそこまで考えて黙り込んでいると、後ろからAが口を出した。
「……今血をもらったらせっかく克服した太陽がまた苦手になるかもしれない」
「その時はまた新しく鬼の子を作るまでだ」
「何回も失敗してるんでしょ。私たちの分の大成功を無駄にするつもりすか？」
小生意気な娘である。
無惨は眉を寄せた。
Aはじっと無惨を見つめる。
「……今から無限城に戻る。城から出ることはできない。万が一に出た場合は内臓を引きずり回したうえ殺す」
無惨は二人に自身の服をつまむよう指示し、二人が恐る恐る従った瞬間、あたりの景色が一変した。
上下左右、いろいろな方向を向いて部屋や廊下が浮いている。
まさしく迷宮だ。
朔久は小さく舌打ちをした。
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作者名：にはろ | 作成日時：2021年5月24日 16時
