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二人はサッサとさっきの男女を隠したやたらデカい犬小屋に入り、そこらを漁った。
結局仮面は己の着ていたドレスから見つかった。
それをまたやっとこさ装着して会場へ戻る。
これは、面倒臭いが好都合だった。
顔を見られないのは大分強い。
今度は頭を下げるだけの番人に片手を上げて入ると、そこはまるで九尾に読み聞かせてもらった『サンドリヨン』の世界。
双子は今己らが侯爵と伯爵令嬢であることも忘れてそれに見入った。
早く我に帰ったのは朔久で、それは肉の匂いが漂ってきたからである。
ちょいちょいと妹の袖を引き、其方へ近づこうとした途端。
「キャーッ」
悲鳴が上がった。
フロアがしん、と水を打ったようになる。
「医者を呼べ！」
怒鳴り声が響き、嫌なざわめきが広がり始めた。
「ワインに手をつけるなよ！」
毒か。
二人はすぐにそれを理解した。
どうやらものすごく厄介なことになった。
俺たちはいつもついてない。
思えば鬼の王の子に産まれた時点で運が常人の比じゃないくらい悪いんだ。
兎も角、このまま身分証明とか何とかで正体が割れたら？
己が助かるためには人間を皆殺しにするか。
いや、それは死んだ母ちゃんに殺される…。
そう朔久が頭を抱える間、毎度恒例能天気Aが動いた。
「おにいさん無事？これ飲めば治るよ」
「ア……？」
「ん？これね、薬」
朔久よりか辿々しく独語を綴る。
差し出したのはA自身の血の入ったワインであった。
彼女は鬼の戦闘力の代わりにデタラメな回復力を手に入れていたのである。
太陽に当てられても死なぬのは、このデタラメ回復の成すところ。
そしてこれもさっきワインを少し含み、意味のわからない早さで抗体を作り上げていたのだった。
倒れた男はア、とかウ、とか呻き声を上げながら、藁にでもすがるように手を伸ばし、だらだら零しながらクスリを流し込む。
被害の男は仮面を外されていた。
美男で有名なユンカーであることは既に皆の知るところとなっている。
当然注目が集まり、得体の知れない女が件のワインをさらに流し込むのに周りの男が飛びつく。
それより早く、朔久は妹の襟首を掴んで窓を破り飛び出した。
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作者名：にはろ | 作成日時：2021年5月24日 16時
