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顎に手を置きとんとんと指で叩いて、朔久はAに耳打ちした。

そして念押し。


「オイ目立つなよ」

「Jawohl, alles gut 」



双りの鬼の視線の先。

舞踏会から抜け出したヨコシマ二匹、薔薇園を歩いている。


女がわざとらしいくらいにかわゆく笑い、それに男がデロデロに鼻の下を伸ばしているのを見て、Aはゲロ吐く真似をした。

朔久は片眉を上げるのみで、様子を伺っている。


のろのろたらたら二人が歩き、やっと園庭の樹で囲まれた場所に入った時、鬼は動いた。



【以下独語】



「ごきげんよう。いい夜だね」

「挨拶はいらん。さっさと済ませんぞ」

「オーライ」


急に空から降ってきて目の前に着地した小童二人に紳士淑女は困惑を見せた。


男が大声で護衛兵を呼ぼうとするが、朔久が素早く後ろに回り、頸を突いて気絶させる。

女が悲鳴を上げる間もなくそちらはAが片付けた。



「死んでない?」

「パーフェクト」



それで双子は躊躇いなく男女から衣服を剥ぎ取り、見様見真似で頭から被った。


「え?待ってこの女腹と腰細すぎ」

「このヒモなんだ?付け方わからん」


二人であたふたしながらなんとか着て互いを見、マァさっきの男女と遜色ないだろと思ったところで悠々と宮殿の中へ入っていく。


音を頼りに歩き、たどり着いたのは大きな石の空間。

辺り一帯絹のような音楽に包まれ、金の光が溢れ出す眩しさに双子は目を細めたが、その先に番人の姿を発見した。


しかし二人は既に変装済み。



堂々と中へ入ろうとして……止められた。





「失礼。此方は仮面舞踏会ですが、旦那様方、お顔を隠すものを何か?」




慣れたドイツ語(ネイティブであるから当たり前である)で話しかけられ困惑の妹に対し、やはり頭の回転が早い兄の方が咄嗟に返事をした。


「ああ!少し此方のフロイラインと出ていましてね。其方に忘れてきてしまったやもしれん。取って参ります。いや失敬」


などと適当に捲し立ててフロイラインの手を引き踵を返す。


頭の良いのは大体朔久の方であり、ちゃんと勉強したのもやはり朔久の方であった。





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作者名:にはろ | 作成日時:2021年5月24日 16時

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