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大妖怪・九尾に連れられ着いたのは、下野国の辺りのおいなりさまだった。
小綺麗にされた石の参道を歩く。
「うわ」
Aが声を上げた。
狛狐がこちらをじろ、と見たように感じた。
というか実際そうであった。
「あら。びっくりしたかな」
「や。だいじょぶです。これも妖怪ですか?」
「少し違う。石に魂を入れる術があるんだよ」
へえ、と今度は感心の声が漏れた。
本殿らしき立派な建物に辿り着く。
九尾が近づくと固く閉じられていた扉が勝手に開いて、彼を中へと通した。
一方の双子は立ち尽くしていた。
昔山にあった神社で遊んでいたときに、本殿に入ったのが母ちゃんにバレて死ぬほど怒られたからである。
夕飯を嫌いなごぼうばかりにされたのを覚えていた。
双子が顎にしわを寄せて動かないのを見て、九尾は軽く笑って言ってやった。
「私の神社だ。おあがんなさい」
それで二人はやっと下駄を揃えて本殿に入ったのだった。
質素な小部屋に通され、用意されるまま座布団の上に正座すると、「今茶を用意させるところだから」と向かいに九尾が胡座をかいた。
「さて、改めて。私は白面金毛九尾。玉藻前は知っているかい」
「『御伽草子』の?殺生石のやつですか」
「そうさね。でも石の話はでたらめだ。天竺の華陽夫人の話もね。まったく、人間はお話を作りすぎて困る」
玉藻前の話は本当なんだな。
思いつつ朔久はAの方も指差しながら。
「朔久と申しますものです。此れは小妹のA。こな度は鬼舞辻無惨の勝手により……」
「良い、良い。堅ッ苦しいのは好きじゃあない。楽にしなさい」
それでにこりと笑うのだから、双子はほっとしてわずかに緊張を解いた。
そして九尾は小僧に妖の宴について説明してやる。
「酒呑殿は別格。私は父から四百年程前にこの二座を継いだ。で、君らの父君だけど、彼は三座。こないだ……二百年くらい前?まで別の奴だったけど、彼が獲っちゃったんだよね。ほら、おになんていっぱいいるからさ。一応酒呑殿も鬼の一人だしね」
以下略。
兎に角妖は人間の数ほど居るので、説明が大変である。
がしかし、無惨が九尾に愚息らを託したのはそのためではない。
「君たちが学ぶのは外つ国の言葉だ。ひと月で叩き込む。悪いけれど、そう頼まれたのでね」
彼の父は己の役である筈の"獨逸吸血鬼との交渉"を丸投げするつもりなのである。
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作者名:にはろ | 作成日時:2021年5月24日 16時