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「何?なんですかこれ。どういう状況か説明してもらっても?」
「俺絶対無惨許さねえから。藤摘んで帰ろうぜ」
「朔久頭に包丁刺さってるよ」
「は?早く言えよ目に血入イタタタタ」
「無痛症かよウケる」
彼らも大概バケモンである。
見慣れぬ小童に妖物ツートップが反応するのも時間の問題だった。
九尾が人のいい笑みで無惨の後ろに話しかける。
コイツが「連れてこいよ」の犯人である。
この狐は狸のような垂れ目で、親父(妲己の九尾の狐)とは全く似ていない優男だった。
あとは、九尾と云いおいて尾が二つしかない。
「やあ。君らが彼の子だね。双子とはやるではないの」
無惨はフン、と鼻を鳴らすのみで何も言わぬ。
九尾は気を悪くする様子もなく、新客に笑いかけた。
「酒は呑める?嗚呼、無理なら断って良いから。え?無理?呑んでみなよう」
絡み酒だった。
大分入っているらしい。
双子は仕方ないので大妖怪仕様のドギツい酒を飲み下した。
父も、実は母もザルであるので一杯くらいならあまり問題ない。
九尾は嬉しそうに頷いた。
気に入られたようだ。
無惨は酒呑童子と話し込んでいた。
スピンクスがどうの猩猩がどうのと時折聞こえてきたが、よくわからない。
帰りてえな〜と思いつつ適当に話を流していると、朔久が酒呑童子に呼ばれたようである。
無惨の視線がキツかった。
Aはというと、女であるから呼ばれなかった。
奴は根継にしか興味がない。
尤も、無惨は跡を他に継がせるつもりなど毛頭無いが。
Aは片眉を軽く上げ、それきり片割れから目を逸らした。
終に九尾も話に再び加わり、彼女は一人になって息をつく。
未だよく理解らんし喧騒は激しいしで流石に疲れ切り、ちまちま酒を口に含む。
父が酒呑童子相手に若干下手に出ているのを見ながら退屈していると、後ろから肩を叩かれた。
振り返れば、美しい青年がAを見据えている。
見た目の年齢はそう変わらぬように見えた。
「おいで。抜け出そう」
そう囁かれるがまま、宴を抜け出す。
半ば強引に手を引かれたが、抵抗はできなかった。
酒に酔ってふわふわと気持ち悪い。
御堂を出て振り返ると、やはりそこには仏像が淋しく恐ろしく佇んでいるのみだった。
そして、Aはそこで気を失った。
雲は晴れたが、満月が欠け始めていた。
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作者名:にはろ | 作成日時:2021年5月24日 16時