Story In The Music 【短編集】

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「勇人」


柔らかい声で呼ばれる俺の名前。

ベンチで次の練習の準備をしていた時のこと。

見んくたって誰だかなんて言わずもがなすぐにわかる俺はよっぽどハマってるわけで。

なに？

いつも通りの調子で返事すれば、自然と抵抗もなく俺の横に座り、俺の右手を取るA。



「勇人、手首痛いの？」


「……は？」


「いや、どうなのってば」


「…あぁ、おう、寝違えた…」



………なんで言わないの、？

なんて呆れ顔で見上げてくるA。


まさか、気づいてるなんて思ってもいない俺は、少し自惚れる。

Aが俺を見てくれているんじゃないか、なんて。



彼女に捉えられたままの俺の手首は両手で包まれ小さな手によってマッサージ。

なのに、触れられた部分が熱を持つのと一緒に、その間、必然と近くなるAの顔に意識がずっと持っていかれてしまう。



好みのタイプでは無いとはいえ、

……こいつ、顔は整ってるよな、。

なんて、完全に惚れた弱み。


それだけじゃない。伏し目がちな彼女は綺麗だった。



「…よし、どう？」


気がつけば緊急の施術は終わっていて、彼女の問いかけに礼だけで返答すれば、


練習頑張ってね。
なんて、離れていこうとする。


「……っわ、なに？」


なぜか、俺はとっさに細いAの腕を掴んだ。



「……すきや」



そして球場内を爆音で流れる音楽に紛れて聞こえるか聞こえないかのような声で本音が零れ落ちた。


ただ見つめ合うだけ、そんな時間が30秒ほど続き、Aに聴こえたのか聴こえてないのかすら分からない俺にはそれすらも長く感じた。



「……悪い、なんもないわ」


絡まりあっていた視線を無理やり解き逸らし、腕をぱっと離した。


なんとも情けなくて、恥ずくてヘルメットで隠して消え入りたい一心でAに背を向けバッティングの準備を再開する。



「…ふふ、

………私も」



背中越しに感じるAのふわっとした空気感。



「…………………は？」


思わず振り返ってAを見れば、思ったよりもいつの間にか距離が縮まっていて気がつけば唇に触れる柔らかいものと視界を覆うほどに近い童顔。


「私は音楽に紛れて告白するそんな勇人も好きだよ」

じゃ、練習頑張ってね


満足そうに手を振って裏に戻っていった。


「〜〜〜っ、」


俺はその場で頭を抱えた。



(その後、影で見てたエースにいじられたのだとか、Aさんには翻弄されてるんだとか。)



「メランコリー」 / 工藤大輝(Da-iCE)

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