プロ野球＊短編集

ポーカーフェイスの片想い。☆上林誠知 ページ14

Seiji side





試合が終わり、ドームから宿舎に向かうタクシーの中。



後ろにどんどん流れていく風景をボーッと眺めていた。



考えているのは、だいたいその日の試合のこと。



今日あれがダメやったなー、とかまあそんな感じ。






でも最近は違う。



『…Aさん』



自分にしか聞こえない声で、そっと呟いた。






*






それは1週間前のこと。





石川『ばやしー、飯行こうよ』



『おー、行こ………ってか撮んなよ』



石川『いいやん、ツイッター用』





柊太と飯に行くといつもこう。
#ばやばやしばやし
とかいう変なハッシュタグ付きで投稿されてるらしい。





石川『焼肉でいい？』



『おー』





行きつけの焼肉屋に入ると、いつものように個室に案内された。



自然と横に目をやる。



すると、一人でがっつりと肉を頬張る女の人が目に入った。



焼肉屋に一人で、しかも女性だなんて。
内心驚いた。



でも、まるで天国の上で最高に幸せな気分に浸っているような。



ここまでとても美味しそうに食べる人を見るのは初めてだった。



幸せそうな顔するな…この人。







石川『…おーい』



『っ、あぁ、ごめん』






慌てて個室に駆け込むと、案の定…





石川『行ってこいよ』



『は…？』



石川『連絡先ぐらい聞いとけって』



『そんな経験あんのかよ』



石川『あるわけないやん』



『じゃあ言うな。(笑)』






ただ見ただけ。



そう、見ただけ。






石川『すみませーん、生2つ』



店員『かしこまりました』






でも、どこか引っかかる。






石川『おい、恋愛下手』



『何だよ』



石川『いいから、行ってこいって。気になるんだろ？』



『いや、別に』



石川『あ〜、ポーカーフェイスの片想いってやつねぇ〜』



『…気になっただけや』



石川『ほらぁー。チャンスは逃すなって』






…確かに恋愛下手。



アクションを起こすまでにここまで時間がかかるほどの恋愛下手。





店員『お待たせいたしました。生ビールです』



石川『ありがとうございます………あっ』





俺はビールを一気に飲み干して、あの人の元へ向かった。





石川『酒の力借りるのかよ(笑)』







« つづく »





お久しぶりです。
復帰作品は、ばやしこと上林選手です。
かなり久々なので、お話作りがすごく大変でした…
友情出演として、上林選手と仲のいい石川柊太投手に出ていただきました！
続きもお楽しみに！

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