Bare

勝ちたい（sk） ページ8

小山さんに勝ちたい。

この頃の……というか付き合い始めたぐらいからの悩みである。小山さんはシゲの親友以上恋人以上配偶者以上みたいな関係性の同僚だ。つまり恋人止まりの私はもう負けている。

シゲの口から「小山さんがさ」というワードが聞こえるとこの悩みが爆発する。小山さん小山さん小山さん。毎日1回とは言わないけれど3日に1回は聞く気がする。そんなに多くないって？いやいやその場にいないのに話題がそれほど出るなんておかしいよ、普通。

今もシゲがバラエティを見ながら小山さんの話をしている。部署が違うのになんでそんなに新しい話を仕入れてきてるんだ。もしかして私へのいらぬ配慮で部署詐称してる？いらないよ、そんな配慮。

「そしたら小山が財布忘れたって言い出すわけ」
「いつもの天然」
「そう、でも俺スマホしか持ってなくてさ」

小山さんはドがいくつあっても足りない天然なのだ。それはこれまで耳にしてきたエピソードで知っている。もしかして私も天然になればいい？あ、あざと女子がお好みだったり？いやいや、できないよ。

「スマホ決済しなよ、てか財布持っていきな」
「そこの定食屋、カードも使えないの」
「で、どうしたの」
「小山走って取りに帰った」
「ひどい」

もう今度シゲの誕生日にお札突っ込めるようなスマホケースでもあげようかしら。ちゃんと1万円札ねじ込んで。そしたら小山さんの手も煩わせないし……いや小山さんが財布忘れなければ良い話では？そうだそうだ。

「何考えてんの」
「誕生日、なに欲しい？」
「えー、小山さんにはひげ剃り頼んだけど」
「また小山さん……」
「え？なに？」
「なんでもないです」

誕プレ調査まで先越されてしまった。小山さんって何者？っていう野暮な質問はやめよう、そうでしたそうでした。箱の中で流れるバラエティできゃっきゃ笑う芸人たちを見るふりをしながら、よくわからない感情を飼い慣らせるよう努力する。

「そんな顔しないでよ、A」

努めて前を向いていたのに、シゲの方に顔を向けさせられる。小山さんの話をしていた時と同じようににこやかで腹立つ。なんなの、そんなに小山さんが好きなの！？

「ごめん、言いすぎた」
「へ」
「反応がおもしろくてつい」
「小山さんの話多いんだってば」
「うん、わざと」
「嫌い」
「はいはい知ってますよー」

もうしないから機嫌直して？ってほっぺたにちゅーすればいいと思ったら大間違いです。今からの時間私にくれなきゃ許さないんだからね！

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