悪女の過去 ２ ページ15
’姉さん！どうしたの？ねえ！’
私が声をかけても姉さんは反応しなかった。
ただ泣いていた。
泣きながら小さく”ごめんなさい。言えないわ。線乃実。ごめんなさい。”と呟いていた。
しのぶはそんなカナエ姉さんを見て何とも言えない顔をしていた。
まるで何かを話すのを躊躇う様に。堪える様に小さな拳を握りしめていた。
そこへ私を案内してくれた青い蝶の髪飾りの少女がやってきて”カナエ様。しのぶ様。急患が来ました。”といった。
しのぶは、これは幸いという様に”カナエ姉さん。行きましょう。”といった。
しのぶは私のほうを見ず出て行った。
姉さんは’そうね’と小さく呟いて立ち上がった。
最後に会った時よりずっと逞しくなっている気がした。
いつか。私が小さかった頃、姉さんは私としのぶを抱いて’二人は私が絶対守るわ！’と言っていたことを思い出した。
なんて優しい姉さんなんだろう。そう思ったのを覚えている。
姉さんには優しい姉さんで居て欲しい。正直な姉さんで居て欲しい。
だから私の気持ちを伝えなきゃ。
そんなことを思い私は姉さんの羽織の袖を摘まんだ。
姉さんは驚いた顔をした。
そして優しい顔を向けて’どうしたの？線乃実’と言ってくれるかと思った。
でも実際には違った。
姉さんは驚いた顔をした後、顔を歪め、害虫でも見るかのような目で私を見た。
まるで私を追い出そうとしていた姉弟子たちの様に。
私が覚えている限り、姉さんは常に笑っていた。優しい笑みを浮かべていたはずだ。
初めて見る姉さんの恐怖で歪んだ顔。
”え・・・。なん・・・で？”
私が固まった時しのぶが入ってきて私の手を振り払った。
’姉さんに触らないで！！！なんで馴れ馴れしくしてくるの？私達、血縁でも何でもないじゃない！！ 行きましょう。姉さん。’
・・・・・・・・・
血縁でも何でもない
これはどういう事だろうか。
私は二人とは確かに似ていない。母さんにも父さんにも似ていなかった。
小さい時から私はひょっとしたらこの家の子供じゃないのかもしれない。などと思っていたことがあったが口にはしなかった。
母さんも父さんもしのぶや姉さんと同じように可愛がってくれたから。愛をくれたから。
そんなこと言ったら悲しむと思ったから。
でも、しのぶの言っていることを信じるとしたら私は胡蝶家の娘じゃないってことになる。
じゃあ私は誰の子供なの？誰の家族なの？
その謎の答えは意外な形で明らかになった。
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作者名：玉葉 | 作成日時：2021年8月25日 18時
