Episode168 妃殿下、崩御 ページ33
ほんとに何も知らねえんだな、こいつ。
ぎり、と歯ぎしりする音が聞こえたが、それは自分が出した音なのだと、佐久間の殺意がこもった視線で初めて気づいた。
ついでにテーブルの下で静かに足を踏まれた。
今度こそこめかみに青筋が立った気がしたが、今俺がこうしてここにいるのも立派な仕事のうちだ。
この商人が何も知らないのは悪いことではない。
むしろ、俺達が最新の情報を届けに来ているのだから、知らないのは当然だ。
しかし今の状況下では、吉良ヒロトの飄々とした態度が癇に障る。
が、あくまで呑気な目の前の男への苛立ちを表面に出さないように、彼の言葉に答える。
「戦況だなんて、それどころじゃあありませんよ。吉良殿」
「へえ。……また何か新しい動きが？」
視界の端に、佐久間が自身の拳を強く握るのを捉える。
食いしばった歯の隙間から、悔しそうな吐息が漏れていた。
俺はそれを横目に、俺の次の言葉を紙に記そうと神経を尖らせる書記の緑川リュウジを一瞥し、何も知らない愚かな大商人にこう告げた。
「王妃が死んだ」
「……なんだって……？」
「おい不動、言い方を考えろ！」
隣でゴチャゴチャうるさいのを、自分がされたのよりも40倍くらいの強さで足を踏み返し黙らせると、吉良ヒロトは言葉を失い、元から白い顔が死人かと思うほどにさらに白くなり、女みたいな細長い指を震わせて嘘だ、嘘だとまるでうわ言のように呟く。
「なんで、そんな……殿下が……なら、街中大騒ぎのはずだ……」
「……今必死に王家が隠してるんです。戦争中に王妃が崩御なさったと国民に知れたら、軍の士気は一気に下がり、なにより国内の雰囲気はどん底になるでしょう。ましてやあの隣国にこれが知れたらどうなるか……確実にこの国は負けます。これはまだ極秘情報です。軍の中でこのことを知っているのは私、佐久間次郎と隣の不動明王、あとは一部の上司のみです。くれぐれも他言のないように」
「……いずれ周りの国にまで知れ渡ることになるよ。そんなの、破綻するに決まってる」
ああ、わかってるさ。
深く考えるまでもない。
それは、佐久間だってもちろんわかっているはずだ。
俺はこの男が嫌いだが、ずっと同僚としてやってきたのだ。馬鹿ではないことくらいわかる。
しかし彼は全てわかった上で、泣きそうな顔をしながらも、大丈夫ですとまっすぐに吉良ヒロトを見つめた。
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愛瑠(プロフ) - 豪炎寺晴矢さん» ありがとうございます！この時期は人生最大の多忙を極めているので更新できませんが、春になったらたくさん更新するつもりです。見捨てず暖かい目で見守ってくださると幸いです。 (2018年12月22日 10時) (
レス) id: cf3c21e846 (このIDを非表示/違反報告)
豪炎寺晴矢 - 楽しく読んでいます!!これからも頑張ってください! (2018年12月1日 20時) (レス) id: 0d4b0ee8a9 (このIDを非表示/違反報告)
愛瑠(プロフ) - 詩子さん» 中世〜近世ヨーロッパを意識して書いているので、基本的な歴史の流れなどに矛盾がなるべくないようにやっております。光栄なお言葉ありがとうございます、遅い更新ですが頑張ります！ (2018年9月28日 7時) (レス) id: cf3c21e846 (このIDを非表示/違反報告)
詩子(プロフ) - 私学校で世界史を選択してるんですけどすっごく世界史の中の話みたいで面白いです！これからも頑張ってくださいね。応援してます！ (2018年9月27日 23時) (レス) id: 77572e4f5d (このIDを非表示/違反報告)
とくにないです(愛瑠)(プロフ) - カナメさん» そう言っていただけると本当に励みになります！ありがとうございます！！ (2017年12月19日 16時) (レス) id: 871e7b599c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：愛瑠 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/baraannzu1/
作成日時：2017年7月17日 7時
