第272話 ページ23
地上に足をつける。
何かを頭で考えるよりも先に、自然と涙が頬を伝った。
葵がそっと私の右手を包み込む。
そして、千年以上も目にすることのなかった愛おしくも穢れた地球を、この目でしっかりと見据えた。
暖かく降り注ぐ日光はすべてを照らして、この星のすべてを抱きしめる。
風に吹かれて花や草が歌うようにゆらゆらと頭を揺らし、生と死を持つ者達の輪廻転生の確かな芳香が鼻をかすめた。
そこを往く人間達は、かつて私がこの地に存在していた平安時代とは全く違う見た目で、庶民が飢饉で野垂れ死んでも居なければ十二単や束帯姿の貴族はどこにも歩いていない。
建物だってあのころと同じものは何一つとして無く、木造の建物も見当たらない。
しかし、懐かしかった。
体で感じるこの重力。
この香り。
五感すべてが、私に地球を教えてくれる。
同時に、数々の地球での記憶が、まるで水が流れ出すように脳の中を駆け巡る。
この穢土に罪人として流され、親の愛に触れた。
人間の欲を一身に浴びて、何もかもが穢れて見えた。
甘くて苦しい、身分違いの恋を知った。
そして別れの時、私と彼は、叶うのかも分からなかった永い時を約束して――
「Aちゃん、……」
耳の横で、右手を包む力を少し強めた葵の、どこか心配そうに私を呼ぶ声が聞こえる。
涙をぬぐって彼女に顔を向け、『大丈夫』と、心からの自然な笑顔を見せると、彼女もまた同じように肩を竦めて微笑んだ。
「……なんか安心した。Aちゃんのその顔がずっと見たかったの」
『え……？』
「だってAちゃん、ずっと思いつめたような顔してるんだもん。すごく心配だったんだからね！」
『葵……』
「きっとAちゃんのことだから、また何か自分の中で溜め込んでるんだろうなって、ずっと考えてた。……それもまだ話せない、かな」
『……』
話すことができないわけではない。
しかし、葵との――みんなとの別れを意識してしまうようなことはあまり言いたくない。
ずっとここにいたい。
月の姫でありながらこんなことを当たり前のように考えてしまう自分が罪深くて、このことに関係する話は胸が苦しくなってしまう。
……だから。
『もう少し、あとでもいいかしら……』
つい俯きがちになってそう言うと、彼女はそっか、と明るく笑って私の手を引っ張った。
「それじゃ、早くいきましょ。みんなが待ってる！」
『……そうね』
どうか、このままでいることを許して。
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名無しの太郎 - 素敵です！オズロック様に堕ちたらどうなってたのか気になります…！！ (2019年12月5日 22時) (
レス) id: d3b3bddaab (このIDを非表示/違反報告)
愛瑠(プロフ) - ルインさん» 返信遅れて申し訳ありません！はい、改めてよろしくお願いしますね！ (2018年8月28日 19時) (レス) id: 871e7b599c (このIDを非表示/違反報告)
ルイン(プロフ) - こんにちは、【キリサメ】から変えました。【ルイン】です！これからは、この名前で宜しくお願い致します。 (2018年7月8日 13時) (レス) id: a5db77accc (このIDを非表示/違反報告)
愛瑠(プロフ) - 歌紅羅さん» ありがとうございます！しばらく絶望的な更新スピードが続きますが、温かく見守っていただけると嬉しいです。 (2018年7月6日 20時) (レス) id: 871e7b599c (このIDを非表示/違反報告)
歌紅羅(プロフ) - この作品、最高ですね。 これからも頑張ってください。 応援してますよ！ (2018年4月23日 14時) (レス) id: e988874bd3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：とくにないです(愛瑠) | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/baraannzu1/
作成日時：2017年5月7日 16時
