第137話 ページ12
｢正直言うと、俺はその試合に出たい。サッカー留学してたあの時の環境でまたサッカーが出来るんだ｣
確かに、こんなにいい機会を逃すのはかなりもったいないだろう。
ずっと努力している彼を見てきた私だから、彼のサッカーがうまくなれば自分のことのように喜べる自信だってあるし、彼の夢が叶えばいいと本気で思っている。
……けど、やっぱり不安だ。
彼が家にいない妊娠生活。何もかも初めてで、お腹にもう一つ命が宿っている中で全部一人でやるのはしんどいのだ。
生活面なら隼人が日本に帰国するまで実家で過ごせばいいだろうが、一番心配なのは気持ちの面。
つらい時、私の心を力強く支えてくれるのは他でもない隼人。
きっといい母親になれるよ、と優しくキスをしてくれた人が、離れていく。
想像するだけで世界がモノクロになるような感覚に陥ってしまう。
『……いつ、帰ってくるの……？』
子供が生まれた時、お父さんがいないなんて状況は少し悲しくないだろうか。
わが子が無事に生まれた喜びを分かち合いたい、命懸けの出産を終えたら、がんばったなって抱きしめて欲しい。
出産の日にいないのは嫌だ――
そんな気持ちを込めて問うと、隼人の眉根が寄る。
少しの間唸って、険しい顔で言った。
｢半年強、って感じだろうな。多分出産には間に合うと思うけど……出産予定日っていつぐらいだ？｣
『7ヶ月後くらい……かな』
｢うん、多分大丈夫だと思う｣
そっか。
小さな声と同時に、安堵と拭いきれない一抹の不安をはらんだ静かなため息が漏れ出た。
｢……Aは、どう思う。やっぱ妊娠中に離れるのはしんどいか？行きたいってのは単なる俺の願望だし、当然大事なのは子供の方だ。行かないでってAが言うなら俺は行かない｣
そうは言うけれど、行くか行かないか迷ってる時点で諦めきれそうにないのは自明の理だ。
自分の夢のために、今までの努力を昇華させるために、高みを目指したい。
その気持ちがそれだけ強いのだ。
彼の真剣な顔と言葉で、今私はやっと、自分が彼の足枷となっていることに気づいた。
妻として、隼人を支えると決めた。精一杯応援すると決めた。
彼の夢は私の夢だと、本気で思った。
それなのに、その夢を邪魔しているのは他でもない私なんだ。
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莉央夏 - 続きが気になりますー！ (2021年8月18日 8時) (
レス) id: e85eafe245 (このIDを非表示/違反報告)
さっちん - コメント失礼します。また更新停止になっていますが大丈夫ですか？これから先どうなるのか気になります！更新してくださいね。 (2020年10月9日 22時) (レス) id: 9ffba0b2d2 (このIDを非表示/違反報告)
もちもちにゃんこ(プロフ) - ずーーっとまってます！いつか続きが見れると信じて！ (2019年9月1日 0時) (レス) id: 5f0e397fd7 (このIDを非表示/違反報告)
愛瑠(プロフ) - はーちゃんさん» ありがとうございます！勉強のせいで更新が遅くなってすみません……がんばりますので見守っていただけたら幸いです (2018年6月29日 15時) (レス) id: 871e7b599c (このIDを非表示/違反報告)
愛瑠(プロフ) - みるみるさん» あああ優しいお言葉ありがとうございます…！更新遅くてごめんなさい！かならずいつか完結させますので応援していただけると嬉しいです。 (2018年6月29日 15時) (レス) id: 871e7b599c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：とくにないです(愛瑠) | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/baraannzu1/
作成日時：2016年3月12日 3時
