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「俺なんも無理してないっすよ」
「いや、なんか、なんとなく。
早く向井来ればいいな」
「…そうですね」
そんな願いも虚しく、
向井先輩の席が空いたままの日々がしばらく続いた。
今日で10日目だ。
「向井先輩…大丈夫ですかね…」
「…ん」
急にラウールが手を止めてそう呟いた。
「俺やっぱ心配だな…」
「ラウール、今仕事中だぞ。
余計な事考えるな」
「余計な事、って…」
「手止めてる暇があったら仕事しろってことだよ」
我ながら冷たいな俺。
まあ普段からこういうキャラだから。
「…目黒先輩は心配じゃないんですか。
向井先輩のこと」
「俺らが心配したところで先輩が来るわけじゃないだろ」
「そういう事じゃなくて…
向井先輩のこと心配じゃないんですかって聞いてるんです」
目を見なくても声のトーンで大体わかる。
今ラウールは俺にイラついてる。
いつもみたいじゃない。本気で。
「心配だよ。
でも心配してもかわんねーだろって言ってんだよ」
俺がそう言うとラウールはしばらく黙った。
その沈黙の間も、俺はキーボードを打ち続ける。
すると次の瞬間、急に席から立ち上がって、
「今の目黒先輩、俺すっげぇ嫌いです」
吐き捨てるようにラウールはそう言った。
なんだよ…
「…っなんだよそれ！」
やばい。仕事中に声を荒らげてしまった。
視線が集まる。
俺は多少萎縮したが、
ラウールは気にもとめていないようだった。
「俺が知ってる先輩は、
普段冷たいけど意外と人を見てて、
ちゃんと人のことを思いやってた先輩です。
けどなんか変わっちゃいましたね。
仕事が一番大事ですか。
目の前の資料しか見えませんか。
…もういいですよ。営業行ってきます」
ラウールはそう言って荒々しくドアを閉めた。
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作者名：涼夏〈ﾘｮｳｶ〉 | 作成日時：2020年8月16日 21時
