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「…え？」
その場の空気が、
一瞬凍った。
やっぱりあの事故の被害者は先輩の彼女さんだったんだなんて呑気なこと考えてる場合じゃない。
先輩の心の痛みは計り知れない。
今何を言ったって恐らく先輩を傷つける。
なんて言えばいいかわからなかった。
「横断歩道の向こう側に、
ジュエリーショップがあってん。
そこで指輪を買うつもりやった。
だから、最後はあそこに行こうやって言うたら、
加奈は笑顔で頷いた。
それが加奈の最後の笑顔やったんかもな」
耳を塞ぎたいほど辛い。
俺でも辛い。
先輩の表情にだんだん余裕がなくなってきた。
声も震えている。
「飲酒運転やった。
信号無視して突っ込んできてん。
俺はそれを見ることしか出来ひんかった。
俺が先に行ってれば…
手を引いていればエリは助かったかもしれんのに…」
違う。違うよ先輩。
「俺のせいや…」
「…っ違う。そんなことない！
先輩が自分を責めることを彼女さんは望んでないでしょ…？」
ふらついて倒れそうになった先輩を、
俺は間一髪で受け止めた。
先輩の頬に涙が伝う。
そして何故か俺も、
涙が止まらなかった。
俺の気持ちなんて、
もう流してしまえ。
この涙とともに。
全部流れてよ。
全部忘れさせて。
もう全部、
なかったことにしたい。
俺らはただの上司と部下。
それだけだ。
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作者名：涼夏〈ﾘｮｳｶ〉 | 作成日時：2020年8月16日 21時
