【アイナナ】mirage【大神万理】 (ページ5)

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落ち着かない朝。
それは昼を超えても変わらず、時の経過などまるで意味がないかのように長く感じてしまう。

約束は5時。
迎えにきてくれるのかな、なんてふと思考に至ればたぶん表情がゆるみまくるやばい奴にでもなっていたのだろう。

「誕生日にシフトいれちゃってごめんね。なんだか最近入りがよくてね…」

「大丈夫ですよ。私、ここの仕事本当に好きですから」

「それは有難いことだけど。今日はそれだけじゃないだろ？うんうん、若い子はいいよね。実にいい。」

「ちょっと待って。なにその訳知り顔」

「ははっ。なんなら皆知ってることなんだし、水臭いよなぁ。岡崎は〜。ま、シャイだから仕方ないか！」

とんでもないことを言い放つ店長を咎めるその手は空を切り、お客の対応へとその背は遠のく。

予想だにしない出来事。とんでもない事実。
知らぬ間に知れ渡る自分の内情に面食らわざるをえないこの状況にまず岡崎がとった行動はといえば。

さっと物陰に隠れ、まるで気配が悟られぬようポケットのスマホを取り出し、そして噂の渦中の相手へと連絡をとる…とここまで数秒を要したか。

とにかくそのタップ速度はといえばえげつなく早く、相手へのSOSをタップする。

"きちゃだめ、やばいから"

そんな意味深なメッセージを残したところで手早くポケットへと放るも、そううまくいかないのが人生というもの。

彼女はあの空を知っている。
印象に残るシルバースカイ、あんな綺麗な色を持つのは彼しかいないのだから。

にこりと微笑みこちらにひらひらと手を振るあの行為におそらく数分前までは浮かれていたのだろうが、今は違う。

「岡崎、お客様だぞ」

「う、うぃっす」

恥ずかしすがて目が合わせられないなんていつぶりの感覚だろうか。今、顔あげれば確実にニヤついているそれと目を合うとわかって以上、視線を合わせないことだけが彼女の取りうるせめてもの反抗手段。

そんな行為さえも見透かされていたのだろう、肩にぽんと手を置かれれば入れ替わるように姿を現す彼には困ったような…嬉しいようで気まずいような笑みをむける。

それが誤解を生んだのか。
それとも奴の感覚がとち狂ってるのか。

「驚かしたくて来ちゃったんだけど。迷惑だ…」

「なに、これが万の彼女？思ったより普通」

被せるように口にされた温度のない言葉。
それが"折笠千斗"との最初の出会いであった。