【アイナナ】mirage【大神万理】 (ページ19)

今日:12 hit、昨日:4 hit、合計:11,849 hit

Re:12 ページ19

.

｢それでムキになったのか｣

｢そんなに笑うことないでしょ。アイツの思うツボなのは癪だったけど、あのときはつい、そう本当につい｣

夜でも明るい都会の空。
事務所から見ることが叶う星は、数られるほどか。

かわいいアイドルたちを見送り、起こしたハプニングに今更悔いる様は学生の頃とまるで変わらず。そんな彼女だからこそ愛おしさを感じる大神は、窓際に頬杖をつき、けらけらと笑っていた。

｢笑いすぎなんだけど｣

｢ごめん。でも、なんか妬けるなーって思ったからおあいこかなって｣

「なにいってんの｣

｢なにもなんも、俺もAのヴァイオリン聴きたいなって。そう思っただけだよ｣

｢……そんなん。減るものじゃないんだから｣

そう呟けば、照れたように肘でつく様は変わらず。ぽすと置かれた手に甘えるのはあまりないことだが、たまにはいいだろうなんて。

「帰る？」

「ん、帰る。なんか今日は無償に疲れたし、帰ったら飲むの付き合って」

「いいよ。何あけようか」

「ほらあれ。もらったアップルワイン開けたいかも」

「了解。じゃあ、ここ片付けてから降りるから先に下で待ってて」

「了解」

一足早く事務所を後にし、玄関口で大神を待つ岡崎は端末の通知音に指を滑らせた。起動された画面には可愛らしいウサギのアイコンが表示されチャットの相手は、当社のアイドルであるアイドリッシュセブンの四葉環であったわけだが。
タイミングが良いと表現すべきか否か、送られてきた内容は先ほど話題に上がっていた即興で行った千とのセッションが撮られた動画であった。

当初は意地とプライドがせめぎ合っていたため、ほとんど記憶になかったというのが本音だったためこうして改めて耳にすると羞恥心が芽生えないといえば嘘になるだろうか。

「やっばい下手になってるわ、私」

「なんで？普通にいいと思うよ」

「ぎゃあっ」

「あ、ごめん。驚かした？」

「絶対わざと。絶対確信犯」

女性とは思えない女らしからぬ悲鳴？奇声？を発した後、呼吸を整えるべく深呼吸を何度か。
光の速さでアプリを落とすと即刻話題を変えようと努める岡崎だが、要領を得ない様子にまた微笑ましげな視線を向けられてしまうのだからこうなってくると悪循環というべきか。

「顔真っ赤」

「ほっといて。ていうかあれ。家着くまで一言も喋るな」

完全敗北を喫した岡崎は反撃の狼煙を上げるべく策に思考を巡らせ、家路につくのだった。