【アイナナ】mirage【大神万理】 (ページ13)

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折笠千斗のややこしい本質に気づいたのは、あの事件から1週間ほど経過した頃だったろうか。ほとぼり冷めた頃に、足を運ぶようになった万理に連れられ顔を出した今回が二度目の邂逅となったわけだが。相も変わらず無愛想な彼の前にコップとおしぼりを並べた時だった。

「ここのおすすめってなに」

不意にとられたコミュニケーション。
以前と変わらずの態度に若干の苛立ちと呆れからくる呆然という単語をひとつ、目の前の男にお見舞いしてやりたいのをぐっと堪え、"ホットケーキになります"なんて淡白な返事を残し後にする。

以前の事件を考えれば普通の神経の人間なら再来店しようだなんて考えないだろうに。
奴は常人ではないらしいとため息をはくと店長からのひとことに驚愕するまであと少し。

イワナコーヒーの看板メニューである厚みのあるホットケーキを焼き上げ、バターを添えたあたりだったろうか。

「彼とは仲直りできたの？」

「へ…？」

「ほら、万理くんと一緒にきてるあの子さ。彼、あの日だって、コーヒーを飲み終えてから僕のところに謝りに来たんだから」

「……それどういうことですか」

信じられない。そんな素振り全くみせてなかったのに。覚える感情は、先程の感情への後ろめたさ故か複雑に交錯する。
コーヒーをハンドドリップし思考すること、数分ほど、打ち出した結論は単純そのものだった。

「店長、この伝票抜いておいてもいいですか？」

「構わないよ。お店も落ち着いているし、少し話してくるといい」

ご厚意にお礼をひとつ。少しの気まずさと共に彼らのテーブルへと向かうと、異変に気づいただろう彼と視線が通い苦笑いがこぼれる。

大神の気のまわりようって本当異常だと思う。

そんな岡崎の思いを他所に、声をかけられれば甘えそうになる自分を律するのも一苦労だ。

「岡崎？」

「パンケーキ、ひとつしか頼んでないんだけど」

「サービス。うちのパンケーキおいしいから、残さず食べてよね。コーヒーはお好みでこちらをどうぞ。それから、勝手にあんたのこと誤解してた。ごめん、あんな態度とって。じゃあ、それだけだから」

まるで捨て台詞の如く。全くもって恥ずかしい限りだが、今日ばかりは許して欲しい。
それくらいには、勇気が必要なことだったのだから。